
グラブラックス Gravlax
スカンジナビア生まれのマリネ
フランスではサーモンがお魚の中でも特に多く消費されていて大人はもちろん、子供にもとても人気があり、スーパーから朝の市場といたるところで季節を問わず買うことができます。
フランス料理での調理方法としてはロティと言って皮目を香ばしくフライパンで焼いた後にオーブンに入れて焼き上げ、付け合わせを添えてソースがかけられて提供されるのが最も一般的かもしれません。
そのほか少し手の込んだものとしては、パイ生地に包んで焼かれたものやテリーヌ型と呼ばれる四角い型に入れてゼラチンを使って固められた冷静の前菜などがありますが、なんと言っても特に有名なものはスモークサーモンでしょう。
フランス料理の世界ではフランスで活躍する日本人シェフたちの影響も合い重なって、鯛やスズキのカルパッチョや南米発祥のセビーチェ(Ceviche)など、生のお魚を使った料理が取り込まれるようになってからは、もうかなりの時が経ちます。
そうしたことからレストランメニューの前菜の項目に生やマリネをしただけの火を通していないお魚を目にすることは、今ではもうすっかり珍しくはなくなりました。
もちろん世界中の食材や調理方法を常に取り込んで日々成長しているフランス料理に影響を与える国は他にもまだまだあり、その時々でフランス料理に使われて流行る、というようなことがあるのですが、その中で今ではフランス料理にすっかり馴染んでいる、北欧スカンジナビア半島に伝わる伝統的なサーモンの調理方法で、グラブラックスというものがあります。
もともと起源としてはサーモンを塩漬けにして砂浜に埋めて少し発酵させていた、いわゆる保存食だったようですが、今では数時間から丸1日、長くても2日くらい漬け込んだだけのものが一般的です。
スモークサーモンのようでもなければ生とも違う感覚で、何よりお家で自分好みにしてとても簡単に作ることができるうえ、ある程度作り置きしておけばいろんな場面で活躍させることができるので、ぜひ一度試してみてください。
サーモンのグラブラックスの作り方
それでは作り方の紹介です。 基本的には同量の塩と砂糖をサーモンの切り身にまぶし、浸透圧で水分を外へ出すのと同時に味をつけて仕上げるという、とてもシンプルな料理方法です。
小ぶりのサーモン。 今日の調味料。
材料
サーモン 今回は丸のままの小ぶりのサーモン(およそ1・65キロ)をたまたま見つけたので買ってきました。 お魚屋さんに頼めは頭を取り除いてくれたり、下ろしてくれたりするのですが、僕はとりあえず鱗だけ取ってくれるようにお願いをして、そのままの状態で持ち帰りました。
しお グラブラックスを作るとき、もっとも一般的に使われる塩はグロセル(Gros sel)と呼ばれる粒の大きい塩なのですが、これも好みの問題できめ細かい普通の塩を使っても構いません。 その場合にはサーモンの身に触れる塩がより均一になるので都合が良いのですが、その分グロセルを使う時よりも量を減らしたり、漬け込む時間を少し短くすると良いと思います。 今回は手元にあったことからゲラント産(フランス東部の有名な海塩の産地)のグロセルを使います。
さとう 砂糖は塩と同じ分量を使うのですが、塩分が勝るのでほんのりと甘みを感じてもサーモンがはっきりと甘くなるということはなく、どちらかといえば塩のみでしょっぱくなることを防ぐことと塩と同様に浸透圧の利用で身から水分を外へと出すためにあるように思います。 今回は少し茶色みを帯びたシュクル ルー・ド・カンヌ(Sucre roux de canne)というお砂糖を使います。
ディル サーモンや他のお魚ともとても相性が良いハーブで、爽やかな香りがします。 漬け込むときにも盛り付けるときにも両方使うといいでしょう。 見た目にも綺麗でオシャレなのでぜひ使いたいです。
ピンクペッパー (Baies Roses)日本ではあまり馴染みがないように思いますが、もしも手に入れられれば漬け込むときに一緒に入れてみましょう。 胡椒とも違う独特の香りがつき、盛り付けるときに少しかければお皿がとても華やかになります。
黒コショウ 味付けというようりかは香り付けだけで後で洗い流すものなので、なるべく粗く挽いたものが良いのですが、もしもきめ細かいものしか無いようであれば、漬け込むときには使わずに仕上がった後に味付けとして使うことをお勧めします。
その他 今回は使いませんが、その他相性の良いものとして細かく擦ったレモンやライムの皮も少し入れると香り付けにとても良いです。 (スライスしたものを入れると酸味が強く身が白く変色してしまうので避けましょう。)
表面を赤く綺麗に色付けするために刻んだビーツを一緒に漬け込むということもよくあります。 伝統的なものはアクアビットやブランデーなど少量のアルコールも入るのですが、香り付けというよりかは保存や殺菌を目的に使っていたのではと思うことから僕は個人的にアルコールは使いません。
何より本来お刺身としても美味しく食べれる鮮度のものを使用すればアルコールはないほうが良いかなと思ったからなのですが、ほんのりとブランデーなどが香るグラブラックスを作ってみたい、という方は少しアルコールを加えてみるのも良いかもしれませんね。
ソース 本来のソースは植物オイルにレモン果汁、はちみつ、ワインビネガーにマスタードとディルを加え、塩とコショウで味を整えたものが使われますが、オリーブオイルとレモンに塩だけでも充分美味しく食べることができます。
大抵の場合はどんなドレッシングでもよく合うのでサラダ仕立てにするときにはお好みのものをかけるといいですし、またパンに挟んでサンドイッチにする時には少しマスタードを効かせてマヨネーズやバターと合わせるもなかなかのものです。
サーモンの下処理
下ろしたサーモン。 骨を抜きます。
下ろしたサーモンは骨を取り除き皮を引いておきます。 血合いのところは僕は個人的にとても好きなので残しますが、レストランで盛り付けられるときなどには大抵の場合、見た目も重視されることから外されることが多いです。
漬け込み
お塩、お砂糖、ピンクペッパーと黒胡椒。 よく混ぜ合わせます。
塩に砂糖、ピンクペッパーに黒コショウを混ぜておきます。ピンクペッパーだけが浮き上がり、黒コショウは沈んでしまうのでスプーンですくい上げるように混ぜます。
容器に敷くように置いた調味料。 1枚目のサーモンを入れます。 今度は調味料を。 2枚目のサーモンと尾の方の切れ端も同様に。
なるべくちょうど良い大きさの容器の底に、合わせた調味料とディルを敷き詰めたらサーモンに満遍なく調味料が行き渡るように重ね入れ、最後にラップとフタをして冷蔵庫で寝かせます。

およそ3時間が経ち、サーモンの身からたくさんの水分が出ていることがわかりますね。 ここで容器の大きさに合わせたこともあったのですが、小さく切っておいた尾に近い部分だけを取り出して水洗いをして、水気を拭いたら少し切って味見をします。
この時、特に塩分の加減に注意します。 尻尾に近い部分は小さいので当然塩分がまわるのが早く、身の厚いところに比べてすぐにしょっぱくなりますが、水洗いをした後の味見で”少ししょっぱいかな?”というくらいが実は全体的にちょうど良い頃合いです。
水洗い後、オリーブオイルに
キッチンペーパーでよく水気を取ります。 水気を取ったサーモン。
塩のかたまりやピンクペッパーで水が詰まらないようにザルなどを流しに置いてサーモンが身割れしてしまわないよう、注意しながら手際よく水洗いします。
この時に長時間水にさらしてしまうと身が水分を吸ってしまうのでなるべく手早く済ませ、洗い終えたらキッチンペーパーを使って水気をしっかりと取り除きます。
この状態で完成しているので好みに合わせて切り分ければもう食べることができるのですが、保存してゆっくり食べていけるよう、最後にオリーブオイルをまわし入れます。 またオリーブオイルを入れることで塩分が優しく落ち着いてきて味もさらに良くなります。
空気となるべく触れないようにすることで、より保存が効くようになるので保存容器に入れてオイルを入れてラップをピッタリとくっつけるようにするか、あるいはジップロックのような袋があれば、スプーンで2杯か3杯のオリーブオイルでしっかりと保存ができるようになります。

今回は比較的とても小さめのサーモンを使ったのでおよそ3時間漬け込んだだけというとても短いでしたが身の大きさや厚さ、まぶす調味料の加減、好みで漬け込む時間は変わってきます。 調味料を最初から加減して入れれば丸1日以上漬けておいてもしょっぱくなり過ぎてしまうことはありません。
そして万一少ししょっぱくなりすぎてしまったかな? という場合には少し冷水に入れて軽く塩抜きをしてからキッチンペーパーでしばらく挟んでおけば大丈夫です。
オリーブオイルを入れて封をしたあとは少なくとも5日から6日は冷蔵庫で保存できますし、分けて冷凍しておけば急なお客さんが来たときに出すおつまみにも便利ですし、キューブ状に切ってサラダに入れるのもおすすめです。
切り分けて盛り付ければ完成です。

切って盛り付けたら完成です。 塩加減はお好みで必要なら少し足し、オリーブオイルにディル、酸味が欲しければレモンやお好みのお酢、あるいは少しサラダ仕立てにトマトやレタス、薄く切って水にさらしたオニオンやエシャロットを乗せてもとてもよく合います。
普段お魚はお醤油とわさびで食べることが多い僕らですが、たまにはこうして少しいつもとは違った味付けをして友達を家に招いてみるのもいいかもしれませんね。
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