『Beyond the Horizon』

Beyond the Horizon Sepia
Beyond the Horizon (Sepia)
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もしも空が描けたなら。

「空と水がしっかりと描けるようになったら、絵描きとしては一人前だな。」

僕がまだ10代の頃、少しほろ酔いで鼻の先を赤くした年配の画家がそんな風に話していたことが今でも記憶に強く残っているせいで、空が広く描かれた風景画や水の表現が豊かな作品を見ると、未だにその時のことを思い出します。

風を受け、周りの色を取り込みながら刻々と表情を変化させる空や水を捉えて表現するのはやはりとても難しく、まして建物や人物などがほとんどない空や海、川が主体の風景となると、それだけで素敵な絵にするのは簡単ではありません。

僕が思う、空も海も完璧に描ききる画家といえば18世紀の終わりから19世紀の半ばにかけてイギリスで活躍したJ・M・W・ターナー(1775ー1851)です。

彼の絵は空や雲、そして水、光、そういったはっきりとした形のないものだけで構成された、まるで”空気感”だけを描いたような絵であるにもかかわらず、美術館に飾られていれば、遠目からでもひと目にして彼の作品だということがわかるくらいのとてつもない存在感を放っています。 

いつも目にする度に、すごいなあと思っていましたが、同時に題材としてはもっと難しいもののひとつだろうということも知っていたので、空や海を主体とした絵を描こうとしたことはありませんでしたが、それでも心のどこかでターナーの絵のように激しく力強い風景ではなくとも1度、青空を大きく描いてれみたいという気持ちは心の片隅にありました。

そうして最近、中学生時代の同級生でチューバ奏者の蔵品太平くんから、今度CDを出したいからその表紙にする青空の絵を描いて欲しいという話があったので、それなら描いてみる機会なのかな、ということもあってふたつ返事で承諾して描き始めたのです。

制作過程

制作過程1

CDのジャケットというのは12センチ四方の正方形なので、それに合わせて今回は正方形のキャンバスに描きますが、あまり小さいものですと伸び伸びと青空を描くことが出来ないので70センチ四方のキャンバスを用意しました。

普段ならあまりしないのですが、比較的大きめのキャンバスであるということと、基準になるようなモチーフや建物などが何もない絵なので、描いているうちに歪んでしまわないようにと、まずは海平線に1本の糸を渡しました。

海と空の比率は波や雲など動きのあるものを描くことを考慮して俗にいう”黄金比”よりも若干海を広く取った割合の構図です。

そして例の如く、イエローオーカーやローシエナなど堅牢度が高く土台をしっかりと作ってくれるような色を主体に大まかに塗り重ねていくところから描き進めていきます。

制作過程2

描きはじめの段階では雲を描こうかどうか多少迷っていたのですが、高さとどこまでも続くような奥行きが表現できたらと思い、やはり描くことにしました。

海の色には空の色が反映されるので、必然的にパレットの上で使う色も空と海とで似通ったものになってきます。 

コバルトブルーにセルリアンブルー、そしてウルトラマリンブルーが混ざり合う中に、極薄い緑色や黄色、紫色も隠れるように存在して、海の浅いところにはターコイズブルーも見えます。

どこの海を描いたのかといえば、それはどこでもない、いわば心象風景です。 大きな海を見ているといろんな感情が膨らんできます。 

このどこまでも続く大きな海を辿っていったら世界中のどこにだってつながっていて、会いたい人に会えるのかな、なんて想像したり、あるいは冒険心が膨らんで旅に出たくなる気持ちも大きく掻き立てられます。

完成

Beyond the Horizon
『Beyond the Horizon』

青空の下に広がる青い海。 その海平線のずっと向こうで生きる人を想って。。

『Beyond the Horizon』
70×70cm  キャンバス に油彩 2020年作

その後も何度も色を重ねていき、ようやく完成です。 少しの色の変化でも絵としての表情をガラリと変えるので、今回は随分と悩まされながらの制作になりました。 

そうしてその度に筆を置き、コーヒーを沸かしては何度も絵に近付いてみたり、あるいは少し離れて遠くから見たりしながら立ち止まっては考える、といった具合です。

ただそうして少し苦労しながら描き進めた絵というのは、出来上がってみれば気持ちを費やした分、愛着も少なからず湧いてくるものです。

つまりは描き終えて満足、良い絵を描く機会を与えてくれた古き良き友人に感謝ですね。

 

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