不思議の国のアリス

不思議の国のアリス(部分)
不思議の国のアリス(部分)

アリスとチェシャ猫

実際に目の前にあるものを見て描きたいということから、油絵を描き初めの10代の頃には、よく折りたたみ式の携帯イーゼルとイス、小さなキャンバスを自転車に積んで、練馬区の石神井公園に行って池の付近の風景を描いたりしました。 

絵がひと段落するとちょうどお腹が空いている頃合いなので、途中のコンビニで買っておいたサンドイッチやおむすびを食べるのですが、木々の生い茂る青空の下、遠くで子供のあそぶ声や鳥の鳴き声を聞きながら食べる昼ごはんは質素でありながらもすごく美味しかったのを思い出します。

ただ外に出向いて絵を描くということは、ある程度の条件が揃わないといけないということがあります。 たとえば雨が降っていたり、風の強い日にはキャンバスが飛ばされてしまいそうになって落ち着いて描く事はできませんし、出かける時間と描く時間を合わせるとそう頻繁にも描きに行くことが出来ないので、そうなると家で絵を描く機会も増えてきます。

そうして家で絵を描く時には『物をよく見て描く』、ということからセザンヌを真似てリンゴを買ってきて絵のモチーフにしてみたり、あるいは花屋さんで大きな百合の花を見つけて描いたりもしましたが、そのうちに目の前に絵のモチーフを用意するのにも限りがあることを感じ始めました。

現在のようにインターネットで検索するだけで見たい資料が見つけられる環境ではなかったので、当時はひとつ何か知りたいことや見てみたいことが出てくると、古本屋さんや図書館に行って調べたり、あるいは何か動物を描きたいとなれば動物園に足を運んで描きたい動物をじっくり観察する、といった具合です。

そうして次第に自分で思い浮かべた描きたいイメージで自由に絵を描く楽しさにも気がついて、あまり実物にはこだわらないようにもなりました。 そうしてだんだんと僕なりに思う本来の『絵』のかたちともいうべき飛び出すような光と影の表現よりも『面』や『線』で構成していくような今の絵のスタイルに近付いてきたのです。

序盤 1〜3

描き始めです。 不思議の国のアリスは元々はイギリスの作家、ルイス・キャロルことチャールズ・ラトウィッジ・ドドソン(1832ー1898)によって書かれた児童向け小説ですが、後にディズニーによってアニメーション映画化されたことで今では世界中に親しまれている物語です。

初めにかるく紙にクロッキー(簡単なラフスケッチ)をして構図を試し描きをしたのち、キャンバスに描き起こし始めます。 何層にも重なっていくのでディティールは気にせずにむしろ『それっぽさ』を大事に描き進めていきます。

この時点でどうやって絵の具を重ねていくか、すでにある程度は想定した上で描き始めますが、もちろん描き進めていく上でのある程度の軌道修正のようなものは必ず出てくるので、時には何度も見直して迷ってしまうなんていうことも実はよくあります。

4〜6

原作での設定ではアリスは栗色の髪をしていましたが、僕も例に漏れず、『不思議の国のアリス』を初めて知ったのはディズニーの映画を見てのことだったので、原作よりもディズニー作品としてのイメージが強いこともあり、ディズニー作品に出てくるアリスほど原色の黄色に近いブロンドではないにせよ、亜麻色に近い金髪で描くことにしました。

作中には本当に様々なキャラクターが登場しましたが、中でも1番印象深かったのは人の言葉を話し、消えたり現れたりして笑う猫、チェシャ猫です。 もともと僕はいつまででも見ていられるくらいに猫が好きなのですが、それがニンマリと笑う猫ともなればやっぱり惹かれてしまうわけですね。

原作では槍を持ったトランプの兵隊でしたが、今回は絵がうるさくなってしまう気がしたので画面の構成のつなぎ役として普通のトランプにし、遠景には三日月の月光下にムラサキ色の花が咲き乱れる設定です。

7、8

以前さくらの絵の製作過程を紹介した時にも書きましたが、本来あまり油絵を描くのには一般的ではないのですが、僕はよく『マスキング』を使います。 

それはどうしても『はみ出てしまわないこと』を意識して筆の運びに勢いがなくなるより、マスキングをすること自体にある程度の時間を使ったとしても、勢いのあるタッチでこうして背景を描くことができるからです。

9、10

そうして2度3度と背景に色を置いたらマスキングを剥がし、今度は同じ厚さの層になるまでアリスにチェシャ猫、トランプを描き進めます。 

フラット(平面的)でいて輪郭に細い線を使うようになったのは、おそらく子供の頃にやった『ぬり絵』や放映されていたテレビアニメの影響が潜在意識の中で大きくあるせいだと思います。

11、12、13

1度では足りなかったので再度マスキングを施してさらに2度、3度と背景を明るめに塗り重ねます。

次にマスキングを剥がした時には主人公のアリスやチェシャ猫を、仕上げに向かってどのくらいの明度と色合いにしていけば良いのかということに当たりをつけることができるので、全体的にバランスを見ながら足並みをそろえるように描きすすめていきます。

14、15

油絵の具は乗せてすぐの濡れたような質感の時と乾いて落ち着いた時の色合いに差があるので周囲との誤差にも気をつけながら色を塗り重ねていく必要があります。 

完成後に全体的なツヤを均一にするためにワニス(あるいはバーニッシュとも。ニス。ツヤ消しのマットなニスもあったりします。)を塗ったりするのも解決方法なのですが、僕は何も塗らない方が好きなので特に後半は溶き油が全体的に均一であることを意識して絵の具をのせます。

部分
アリス(部分)
アリス(部分)

完成間際の部分拡大の写真です。 こだわりと言いますか、僕は『線』を大切にしているのですが、線の中に濃い茶色から『朱』の色に近い色のグラデーションを施すことで画面に調和を与えます。

最終段階、大きく息を吸い込んでから息を止めて描くような、最も緊張する瞬間ですがここまで来れば完成はもう直ぐそこです。

完成
『不思議の国のアリス』
『不思議の国のアリス』

不思議の国のアリスから

『アリスとチェシャ猫』

61×50cm キャンバスに油彩 

2020年作品

完成です。 乾いていない時には待たなければいけませんし特に今回は少し長めに(3ヶ月半ほどでしょうか)時間がかかってしまいましたが最後にサインを入れてようやく出来上がりです。 

こうして自分の絵の製作過程を紹介するのも今までになかったことですが少し裏側を知ることで作品制作の面白さに興味を持っていただけたら幸いです。

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