包丁のすすめ。

トマトときゅうりのスライス。
トマトときゅうりのスライス。 
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包丁の話。

今日は『ひとつ大切にできる包丁を持つ』ということは、料理が楽しくなるだけでなく、気持ち的にも大きな利点をもたらせてくれる、というような話をしようと思います。

「良い包丁を持つといいよ」というようなことを言うと、まあやはり刃物なので「あまりよく切れる包丁は怖い」ということでしたり、あるいは「わざわざ高いものを買わなくても取りあえず使えればいいから」というようなことを思う人も多いかもしれません。。

確かに家庭で使う普通の包丁を1本買おうと思えば数千円で買えるのに、わざわざその3倍も4倍もの金額を払って高いものを買う必要はないと考える人も少なくはないかもしれませんね。

ですがそれでも包丁は、ある程度良いものであった方が良いという理由は少なからずあります。 1つ目の理由として、毎日のように使う機会があるものなのに、ちゃんと手入れさえしていれば、これほど長く使える物もあまりないということです。

たとえば気に入った洋服や靴、あるいはスマートフォンやパソコンなどの電子機器も、毎日使うものは、やはり定期的に手入れをしながら使っていたとしても、通常は寿命がきて数年おきに買い替えるのが普通でしょう。

しかし包丁はプロの料理人が毎日長時間使ったとしても、10年以上使うことができるものなので、家庭において個人で使う場合には、たとえばビンや缶をこじ開けるような、よほど間違った使い方をして無理な負荷をかけて折ってしまったりするようなことでもない限りは、本当に末長く使えるものです。

現代のように目まぐるしい速度で物を消費していく社会の中、何か身近な物で愛着を持ちながら大切に長く使っていけるものがある、ということは、とても貴重であるように思います。

2つ目以降の理由は、大切にしている包丁で料理をする、ということから派生する精神的な利点です。 たとえば誰かを家に招いて食卓を囲む時、もちろん家族や自分自身のため料理を作る時にだって愛着のある道具で作れば当然料理も愛情深いものになりますからね。

世界で誉高い日本の包丁。

海外の視点から見た日本という国の側面には、今も『サムライ文化』みたいなものがありますが、もちろんフランスも日本文化に興味がある人が最も多い国の一つで、たとえば日本の漫画の消費量が海外において1番多い国であるということはとても有名な話です。

海外の人たちの目からすれば、優美な曲線を持った日本刀を脇にさしたお侍さんは、きっとどこかミステリアスで神秘的なものに映るのでしょうね。 そしてそんな刀を作るような技術を継いで作られる日本の包丁は、世界中の料理人の憧れの的でもあります。

僕が時折日本へ一時帰国する時には、毎回と言っていいほど包丁を買ってきてと頼まれるので、帰国した時には必ず一度は合羽橋の道具街に立ち寄るのですが、そこでも毎回たくさんの外国からのお客さんが来ていて賑わっているのを見かけます。

神聖な刃物

本来は武器である刀ですが、大量の砂鉄を長時間にわたって炊くことで得られる『玉鋼』(たまはがね)を叩き上げ、さらに磨き抜くことで出来るその繊細で神経を削るような製造過程は、まるで何かに祈りを捧げながら作られていくようでどこか神聖な空気が感じられますし、また実際に刀が神事に祀られることもあります。

また誰かが亡くなってしまった時に胸元や棺桶の上に置く『守り刀』というのもありますし、やはり僕たち日本人にとって、刃物というものはどこか神格化したところがあるのかもしれません。

そうして時代は移り変わり、今では昔ながらの伝統的な作り方で製作される日本刀というのは一部の愛好家などのためにわずかに作られているだけですが、その打ち刃物の技術は日常生活で実際に使う包丁や刃物を作るためにもしっかりと引き継がれています。

それは日本刀を作るほど長く複雑な工程を経て作られるものではありませんが、それでもやはり赤く熱した鋼(はがね)を叩き、焼きの入れられた包丁は、長く使うに十分に値する素晴らしいものです。

有次(ありつぐ)の日本鋼の包丁。
有次(ありつぐ)の日本鋼の包丁。

包丁の選び方

それでは実際に数ある包丁の中で、いったい何を基準にどういった物を選べば良いかということですが、結論から言うと、やはり『自分に合った物』を選ぶということが1番です。

たとえば男性と女性であればやはり男性の方が手も大きく、力も強いのでその分大きめの包丁が使いやすいということは、ご想像の通りだと思いますが、その他にもいろいろと選ぶ基準はあるので、もう少し詳しく見てみましょう。

和包丁と洋包丁

まずは和包丁と洋包丁についてですが、その最も大きな違いは単なるデザインの違いなどではなく、片刃(かたば)であるか、両刃であるかの違いにあります。 

片刃である和包丁はその名の通り片側だけ研いであってもう片方はほぼ平面に近いのが特徴です。 ニンジンやダイコンなどの根菜を端からスライスしていくような時にはとても都合が良く綺麗に切ることができ、かつらむきのような繊細な仕事をするのにも適しています。

右利きであるなら右側を研いであるものを、左利きであるなら左側を研いであるものを使いますが、実際お店に並んでいる和包丁のほとんどは右利き用に作られているので、左利き用が欲しい場合には通常注文して作ってもらうことがほとんどのようです。

両刃である洋包丁も実際には利き手側である方を基準に多めに研ぐので、8:2あるいは7:3くらいの割合で片側を多く研ぐことが一般的です。

それでも片刃の包丁に比べればやはり左右対象に近いので、大きなかたまりの食材を真ん中から切る、というような時には大変都合が良いです。

ドイツ、Wüsthof社のステンレス包丁。
ドイツ、Wüsthof社のステンレス包丁。
長さ(刃渡り)

より具体的に選ぶ基準として、まずは『長さ』ですが、俗にペティナイフと呼ばれる刃渡り15センチ未満のものから、長いものとなると30センチ以上の包丁もありますが、最も実用的なものをひとつ、となるとやはり18から21センチくらいのものが一番バランスの取れている長さだと思います。

女性でしたら18センチの万能包丁とも呼ばれる三徳包丁(サントク)を1本、できたらそれに加えて細い切っ先が使えて小回りの効くペティナイフを2本目にそろえるというのも良いかもしれません。 それでほぼひと通りの料理を難なくこなす事が出来ます。

あるいは魚を3枚に下ろしたい、大きなものを切る機会も多そう、という時には切っ先の尖った21センチ前後の『牛刀』(ぎゅうとう)も非常に使いやすいです。 僕自身も最もたくさん使ってきた包丁で、慣れてしまえばそれ1本で何でもできてしまうほどです。

材質

次に材質ですが、これは大きく分けて鋼(ハガネ)かステンレスに分けられます。 それぞれの特徴としてはハガネは硬く、研ぐ時も刃が付きやすく(すぐによく切れるようになる)切れ味も抜群ですが欠点として硬い分、欠けやすく、使った後に水分をよく拭き取っておかなければとてもサビやすいこということです。

ステンレスはハガネほど硬くないことから切れ味は劣りますがサビにくく、刃こぼれが起きにくいという事が挙げられます。 現在は一般家庭のみならずプロのキッチンにも、出回っているそのほとんどがステンレス系の包丁であるのは、やはり手入れが簡単である事が大きいように思います。

と、2つの金属について話しましたが、実際にはハガネを芯にステンレスで両側からはさみ、刃の部分だけがハガネのものであったり、あるいはハガネに近い切れ味を保ったままサビにくい合金のものだったり、刃物屋さんを訪れると様々な金属で作られた包丁が売っています。

今は洋包丁の大部分が錆びにくい材質で作られていますが、僕個人としてはやはりほんの少し手間はかかるにせよ、その分愛着が湧くので、ハガネが少しでも使われているような包丁を勧めたいと思いますが、三徳包丁の場合にはほぼ全てがサビに何らかの対処がされているものなので、その中から選ぶと良いでしょう。 

そしてできるなら自分の名前を刻んでもらうとさらに良いです。 自分の物にわざわざ自分の名前を彫るなんてと思う人もいるかもしれませんが、実際に自分の名前が刻まれるとやっぱりなんだか嬉しくなるものです。

柄(え)取っ手の部分

柄の部分はできたらお店で実際に握ってみて具合を確かめてみる事が理想です。 握りやすいことはもちろん濡れたてで掴んでも滑りにくいものが良いですね。 和包丁の木の柄は痛んできたらお店に行って簡単に交換してもらう事ができます。

砥石

たとえどんなに良い包丁をつかっていても使い続けていれば必ず切れ味は落ちてきますので、やはり自分の包丁を自分で研ぐ、ということが出来るに越したことはありません。

昔は一般家庭でもお母さんが砥石を使って包丁を研いでいた光景は普通だったといいますが、最近ではあまり砥石を使って包丁を研ぐ習慣があるという人は少なくなっている気がします。

少し難しそうに感じても実際にやってみればそんなこともないのでぜひ挑戦して欲しいと思います。

包丁が欠けてしまった時に形を整えるのに使う荒砥石(あらといし)、実際に刃を付ける中砥石、そして最後に磨くための仕上げ用砥石、と大きく分けて3種類の砥石がありますが、専門店に行くとさらに細かく番目が分かれていて、いろいろな大きさの粒子(キメの細かさ)のものが並んでいますが最初は中砥石が1つあれば十分です。

何日に1回、というよりも切れ味が落ちてきたと感じた時に研ぐと良いです。 お寿司やさんの柳刃包丁などは日に2度3度小まめに仕上げ用砥石だけで研ぐと言いますが、家庭で使う分には使用する時間も限られてくると思うので通常は週に1度も研げば十分です。

1度買ってしまえば落として割ってしまうことでもない限り、砥石もとても長く使う事ができるものなので、できたらあまり小さなものは避け、ある程度面積があるものを選んだ方がやはり使いやすいです。

砥石と包丁。
砥石と包丁。
まな板

まな板というと特にこだわった事がないという人の方が多いと思いますが、実はとても大切なものです。 小さくて薄く、場所もとらなさそうだからと適当なものを買うことは本当におすすめできません。

まず大切な事が、小さくて軽いまな板の上で食材を切る、ということは正直包丁を使い慣れたプロの料理人にとってもかなり仕事がしづらいものです。 場合によってはまな板ごとすべって怪我をするなんていうこともありますし、ましてやこれまであまり包丁を使う習慣がなかった、という人であれば尚更です。

キッチンの形状から、しっかりとした大きなまな板を置くことは難しい、ということもあるかもしれませんが、なんとか工夫をしてでもちゃんと食材を安定して切る事ができる環境を用意することは大切です。

ある程度の大きさ、そしてある程度の重さもあるとより安定します。 さらにまな板の下に滑り止めを敷けたらなお理想的ですね。

最後に

時折、ほんの数分でも包丁を研ぐ時間は、静かに雑念を払って精神統一ができる落ち着いた時間であるように思います。 

そうした小さな時間を大切にすることで少しでも『急ぎ過ぎた生活』の中に精神的な休息の時間を持てたら、きっと誰かに対しても、そして何より自分自身に対しても優しくなれるような気がします。

『料理は心』と言いますが、もちろん得手不得手はあるにせよ、もしも「誰かになにか作ってあげたいな」という気持ちが持てたなら、それはもう、掛け替えのない宝ものです。

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