
腰痛の多い現代人。
人が糧を得るために働き、バランスよく健康的に生きていくのに最も自然で理想的な労働時間というのは大体6時間くらいである、という話を聞いたことがあります。
日本でも産業革命以前の遥か昔は、もちろん職業や地域、環境にもよるのでしょうが、仕事をするのはお日様のでている間だけだったり、やはり平均して6時間程度の労働時間の時代が長くあったといいますが、『時代の流れ』もあって現在の日本人の平均的な労働時間というのは世界的に見てもかなり長い方であるということは、今更言わずとも誰もが知っていることかもしれません。
そしてさらに太古の昔まで人間の進化の過程を辿ると、人ははじめから今のように二足歩行で歩いていたわけではなく、はじめは四肢を使って移動をし、やがてはお猿さんのように時折は2本の足だけでも動けるようになり、さらにその後になって現在の人間のように完全な二足歩行で歩けるようになったという歴史があります。
つまり人間の身体というのは初めから二足歩行で移動できるように設計されていたわけではなく、進化の過程においてだんだんと2本の脚で歩けるようになったため、構造上どうしても腰への負担がかかりやすく、言わば人体の弱点であるということです。
かつては重い内臓の入った胴体を四肢で支えていたのに、半分の2本の脚でそれらを支えなければいけなくなったわけですから当然負荷も大きくなりますからね。 なので四肢を使って歩く動物はまず滅多なことでは腰に問題が起きるということはなく、腰痛というのは僕たち人間にだけ背負わされた宿命的な問題なのです。
そもそもの腰痛の原因って。。
人の進化の過程から想像しても、たとえば日本人のような農耕民族、あるいはヨーロッパやアフリカ地域のように狩猟民族だった人たちも皆、本来は立ったり座ったり、歩いたり走ったりと、1日の中でもいろんな姿勢をとりながら生活してきたはずです。
ですが、現代人は職業によって日に半日以上もパソコンの前で座って仕事をしていたり、あるいは1日中立ったままの仕事であったりと、要するにかつてはあり得なかった環境によって腰に強い負担がかかるということがとても多くなったということです。
そうしたことを考えると現代人のおよそ4分の1の人が、腰になんらかの問題を抱えているという話にもきっと頷けるのではないでしょうか。
腰痛の種類
ひと口に腰痛と言っても原因は実に様々です。 ただの筋肉痛や疲労である場合にはマッサージや休養で治すことができますが、場合によっては神経を圧迫して激痛が起こり手術が必要になる深刻な腰椎椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症、あるいは腰椎すべり症などもあります。
「腰が痛い」などというと、腰の痛みを感じたことがない人たちからすれば、お年寄りだけが抱える問題だと思う人が多いですが、特に僕が10年以上にわたって苦労させられた腰椎椎間板ヘルニアは20代の人にもとても頻繁に起こる病気です。
腰が痛いと感じたら
まず腰痛を感じたら、すぐにお医者さんに行って原因をはっきりさせることが大切です。 大抵の場合、酷いヘルニアを患う時には必ずと言っていいほど、前もって兆候があります。 たとえば最初は少しだけ腰に違和感を感じるだけだったのが、時折痛むようになって、その後は間隔を詰めて頻繁に痛くなり、痛さの度合いも増してくる、と言った具合です。
そうこうしているうちに慢性化してやがてヘルニアなどになってしまうと、将来的に人生において本当に長い時間を無駄にしてしまうことになります。 たとえば友達と食事をしていても、ある一定の時間が経つと痛みが出てきてしまって会話にも集中できずに楽しめなくなってくる。 病院にも頻繁に通い、仕事の後に出かけたかったのに痛みがあるから家に帰る、などと長くつきまとう問題へと発展してくるのです。
僕自身、本当に長いあいだ腰の問題に対して無駄な時間を費やしてきたと思いますが、『もしも問題が起きた最初の時点で今の知識があったなら』と考えたら、きっと悪化させて手術を2度もすることにはなってはいなかったのではないかと、いまだにふと思うことがあります。
腰痛との付き合い方。
ここがひとつ、とても大切なところになるのですが、腰痛や腰椎椎間板ヘルニアを患ってしまった場合、痛みがある時にはベルトを巻いたりマッサージに行ったりお医者さんに行ったりとお金や時間、気持ちまでも浪費することになるのですが、『喉元過ぎれば熱さを忘れる』と言いますか、いったん痛みが引くと何事もなかったかのように改善を怠って油断をしてしまう、ということが最も気をつけなければいけないところです。
痛みが引いたとしても、それまでとまったく同じ生活をしていたのでは、当然のことながらまた同じ問題を繰り返す可能性が高くなり、ただ慢性化するどころか大抵の場合は回を重ねるごとに前回よりも痛みが強いものへと発展します。
そうして1度負のスパイラルに陥ってしまえば、長い人生を通して痛みに悩んだりお医者さんにかかったりと、とてつもないほどの時間を無駄にすることになってしまうのです。
つまりは一度でも腰を患ってしまったら、痛みが引いた後も生活習慣の中で今までいったい何が腰に負担をかけていたのかをすべて一度見直して改善に努めなければならない、ということです。
最初の見極め
具体的な解決策や腰の痛みを軽減させる方法はいくつもありますが、まずは腰が痛いと言っても何が原因であるかをはっきりさせることが大切です。 お医者さんに行って症状を説明して診断をしてもらうのが最初にすることになりますが、より確実にはっきりと原因を知るためにはCTスキャン、出来たらMRI検査で腰椎の状態を視覚化して見てもらうのが理想です。
ただこの時、CTスキャンやMRIの撮影時の身体の姿勢によっても、腰に痛みが強く出ているのに撮影した写真では特に問題が見られない、あるいは逆にはっきりとヘルニアが確認できているのにその時には痛みは出ていない、などとお医者さんも首を傾げるようなことも偶にあります。
解決策
そして解決策ですが、まずは腰の問題に対して痛い時だけ受け身になってその場凌ぎの対処をするのではなく、痛みが消えたからと忘れてしまったり、面倒だからと放っておかずに、もう2度と痛みなんて出てこないようにしっかりと『退治』しておく、というような気持ちがとても大切になります。
受け身でいるとどうしてもダラダラと引きずってしまうことになるので、それよりも先手必勝と言いますか、生活の中での優先順位において腰の問題を解決することをなるべく上位に置き、改善するための時間を先に作った方が、長い目で見た場合には必ず無駄な時間も減ることになるのは間違いありません。
生活習慣の改善
まずは自分で今すぐ出来ることの一つとして生活習慣の改善が挙げられます。 その中でもまず初めに見直したいことが『座る』ということについてです。 職業上1日中立ちっぱなしなのも良くありませんが、1日中座りっぱなしというのはさらに良くありません。
というのも人体の構造上、人は立っている時よりも座っている時の方が腰への負担が約4割ほど多くなるということが言われています。 ですのでまずは長時間座り続ける、ということを極力避けるようにしなければなりません。
ですのでたとえば自宅でパソコンに向かって仕事をするような人であれば、パソコンの位置を上げ、立って作業をするようにするとか、あるいは座って仕事をする場合にも小一時間おきに立ち上がって10分ほど軽く家事を進める、といった具合にしてあげるとそれだけで腰への負担をかなり軽減させることができます。
負担の少ないイスやベットを
それからイスやベットもなるべく腰に良いものを選ぶということも大切です。 とにかくその上で長時間過ごすので、なるべく腰への負担の少ないものを選ばなければいけません。
腰は一瞬だけ重いものも持ったりしての負担よりも、小さくても長時間にわたって負荷がかかり続ける方が、はるかに大きな負担になるので、長時間過ごす『場所』に対してはしっかりと気をつける必要があります。
たとえば僕がフランスでお医者さんから言われたことの一つとして「ソファには座らないでください」というのがあります。 ソファは柔らかいものが多いので、一見すると心地よくて腰が楽なように思う人もいますが、実は柔らかいことで腰が深く沈むので、負担がとても大きいのです。
なので固すぎるのもいけませんが、椅子もベットも腰が沈み込まないある程度しっかりしたものを意識して選ぶと良いと思います。 付け加えて眠っているあいだ、人は寝返りをうって骨格を修正する、という話も聞いたことがあるので、自由に寝返りをうつことができるくらいの幅のところで眠ることも大切です。
よくソファで寝る習慣がある、という人は、その時は痛くなくても腰にとってはとても強い負担がかかっているので、すぐに真っ直ぐなところで寝るようにすることをお勧めします。
針・マッサージ・指圧
ヘルニアなどの重篤性のない、疲れから来る腰の周りや背中の筋肉痛、こりには有効ですが、重篤な症状の場合にはやはり直接的な解決方法にはならないのと、頻繁に通い出すようになれば金銭的な負担も重なっていくので治療に向けてすべてを委ねるというのはやはり最善の策とは言えません。
どちらかと言えば補助的なものとして捉える方が良いように思います。
整体
整体は症状によってはヘルニアでも痛みを一瞬で軽減できたり、効果も期待できますが、整体師さんの感や腕に頼るところが多いのと、上手くいかずに痛みが増したという例も少なからずあるようなので注意が必要です。
腰痛ベルト
腰に強い痛みがある場合にはとても有効で、しっかりと締め付けることで安心感も得られます。
ただ日本ではあまり言われてはいないようですが、フランスでは腰痛のベルトを常につけているような習慣ができると、本来なら日常生活で使われるはずの腰回りの筋肉の働きが、ベルトに頼ることで少なくなってしまうので、どうしても、という時以外はベルトを外していた方が良いという考えがお医者さん達のあいだにあるようです。
薬・痛み止め
ひどい痛みが長く続いていた時には、僕も本当にたくさんの薬を服用しましたが、結論から言うとやはり気休めにはなっても直接的な解決方法ではないので、できることなら飲まずにいたいのが本音です。
ですがひどい痛みが出ている時にはやはりそうも言ってはいられないので、一時的にそれで痛みが和らぐのであれば、もちろん服用した方がいいでしょう。
僕はフランスでBi-Profenidという消炎鎮痛剤(日本で近いものはケトプロフェン)や、それによって胃の内壁が痛むのを防ぐ薬、あるいはパラセタモールといったものを飲んでいましたが、やはりそれらの薬を飲み続けていると胃が荒れて気持ちが悪くなるのと薬に慣れてしまうことで効果が薄れてくるといったことがありました。
症状によって薬の効きが変わると思いますが、うまく薬が効いてくれて痛みが引いたとしても治ったわけではないのでやはり腰への負担には引き続き気を付ける必要があります。
筋力トレーニング

これ以上のものはない、と言い切れるくらいに筋力トレーニングは腰の問題に対して有効なもので、何より僕自身がいろんなことを試した中で最も有効だと確信したものです。
もちろんぎっくり腰の直後や絶対に安静にしていなくてはいけない、などという時や痛みがある時にはやってはいけませんが、腰に問題を抱えていたとしても、必ずどこかで『調子の良い時』というのが訪れます。 その時がきたら筋力トレーニングを少しずつ始めるチャンスです。
ただ筋力トレーニングと言っても、どういった種目でどれくらいやれば良いのか、というのも年齢や性別によってもかなり変わってきますし、重い重量によって腰に負担のかかりすぎるような種目も、当然ながら避けなくてはいけません。


お年寄りの場合であれば1日の中で一定の距離を歩く、というだけでもとても良いことですし、若い人の場合には、やはりしっかりとした体幹を鍛えるトレーニングをすることで腰の問題はかなり軽減されるでしょう。
簡単にできる腰痛体操や軽い運動でももちろんそれなりの効果は望めますが、『しっかりと鍛え直したい』ということを考えた場合には、やはりもう一歩先に進みたいところです。
そこでひとつ、強く思うことがあるのですが、フランスでもお医者さんからイラストで紹介された腰痛体操を勧めるパンフレットのようなものをもらったり、キネジセラピーという補助医療に通ったりしましたが、おそらくは分野が違う、というか医療の枠を超えた範囲のためか、お医者さんはこれまで、あまり本格的な筋力トレーニングについては特に勧めてきたことが無かったということです。
これは僕が勝手にしている憶測ですが、実際に本格的な筋力トレーニングをしようとすると、ある程度の設備のあるジムへ通ってどういった種目で腰を強くしていくかということや、間違った方法で余計に腰を痛めてしまうリスク、食事を摂取するタイミングに栄養学など、覚えることが本当にたくさんあるので、そうしたことからお医者さんは簡単には本格的な筋力トレーニングを勧められないのでは、と感じています。
筋力トレーニングについては書きたいことがたくさんあるのでまた改めて記事にしたいと思いますが、ぜひこれを機に腰に問題を抱えている人は『腰に問題がなかった時よりもさらに強くする』ことを目標に、筋力トレーニングを始めることを今腰の問題を抱える人たちにも、そうでない人たちにも強く勧めたいと思います。
ストレッチ・ヨガ
ストレッチやヨガも痛みが出ている時には避けた方が良いですが、そうでなければしっかりと体を伸ばし、可動域を大きくすることで怪我をしづらい身体を作ることができますし、特に腰をゆっくりとツイストするような動きは腰の骨がグッと伸びるので、動きとして軽度のヘルニアには有効であるように思います。
僕も自宅でいつでも好きな時にできるということもあって、もう長いあいだ習慣としてストレッチを続けていて、今では僕にとってなくてはならない日常のひとコマになっています。
食事
腰の問題、特にヘルニアの場合には『病気』とは呼ぶもののどちらかというと『部品の破損』というようなイメージをした方がわかりやすいかもしれません。
ですがロボットや自動車のように技術者が素早く部品を変えるというようなことはできないので、やはり痛みが引いたタイミングで筋力トレーニングをしてしっかりと強靭な『筋肉でできた自前のコルセット』を作ることが必要になります。
ですので『これを食べれば腰痛やへルニアに効く』という食べ物があるわけではありませんが筋力トレーニングをするに並行して筋肉の材料になるタンパク質を多めに取る、ということは意識する必要があると思います。
タンパク質の多い食材として、お肉やお魚、卵、あるいは市販のプロテインもとても心強い味方になるはずです。
手術
もしも重篤なヘルニアを患ってしまった場合は手術も考慮しなくてはいけません。 腰椎椎間板ヘルニアは重症になると座骨神経痛を伴ってそれこそ尋常ではない痛みが出て歩くどころか立ち上がることも出来なくなってしまいます。
近年になって保存療法でも根気よく待って3ヶ月、あるいは6ヶ月と長い目で見た場合、飛び出してしまった余分なヘルニアを白血球が食べ、消滅させてくれるという例も挙げられているようですが、実際のところ現代人が何の予期も無しに急に3ヶ月も動けない状態でいることはかなり難しいので、早めの判断が必要になると思います。
ちなみに僕の場合はまたいつか詳しく綴ろうと思いますが、およそ8ヶ月ものあいだ身動きが取れなくなってしまったことがあります。 その後、1度は良くなりましたが再発を機に結局2回の手術をしました。
僕がフランスの病院で受けた腰椎椎間板ヘルニアの手術は、おそらく日本でいうLOVE法というものでしたが、今は内視鏡下手術によって長い入院をすることもなく傷も2センチ前後しかなく治ってしまえばほとんどわからなくなってしまうという手術の方法もあるので、腰の痛みに何年も悩まされている場合には、お医者さんとの相談の上、手術も視野に入れるべきだと思います。
付け加えて、ここでももちろん術後に痛みが完全に消えたからといっても再発の可能性は常にあるので油断は禁物です。
最後に
僕自身がとにかくとても長い間、症状の重いヘルニアに悩まされ続けていたので、もしも誰かの役に少しでも立ってもらえたらということから経験をもとに今回は腰の問題について書き綴ってみました。
同じ腰椎椎間板ヘルニアと診断されても放っておいてすぐに治るものとそうでないものもあるでしょうし、MRI検査をして写真を見ても、もちろん個人差があるでしょう。
ただ共通して言えることは誰も痛みを抱えて生きていくことなんて必要としていないということです。
あくまで僕ひとりの体験から思ったことや感じたことを軸として書いているので、もしかすると間違っていることや、なんの参考にもならないということもあるかもしれません。
ですがひとつの参考として、何か新しい視点を持つきっかけになって少しでもあなた自身やあなたの側にいる人の腰の問題の改善に少しでもつながってくれたならそれはこの上ないことです。
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