油絵を描こう 9

花びらに切ったマスキングテープ。
花びらに切ったマスキングテープ。

フランスの桜の木

フランスには日本から贈られた桜の木があちこちにあって、中でもパリに暮らす日本人の間で最も有名なものは、パリの南側郊外にあるソー公園(Parc de Sceaux)の桜かもしれません。 

ソー公園には白に近いような色の淡いピンク色の花が咲く桜の木もありますが、特に印象的で綺麗なのが濃いピンク色の花を咲かせる八重桜の一種で、天気の良い日に青空の下たくさんの桜が一斉に花を咲かせると、空のブルーに桜の花のピンクのコントラストが何とも素晴らしく綺麗で感動させられます。

桜が満開になる時期の週末には、多くのパリに住む日本人がお弁当を用意してソー公園にお花見をしに訪れるので、公園内を歩いているとそこら中から日本語が聞こえてきて、まるで日本にいるような気分になる時があるくらいです。

もちろんフランス人から見たって同様に美しいと感じる桜ですが、それでもやっぱり日本を離れて生活をしている僕のような日本人から見た桜というのは特別な思い入れがあるし、何より日本のことを強く思える時間でもあるので、フランスでのお花見というのはとても貴重です。

油絵で描く桜の絵

日本での芸術における桜というのは、古くから日本画の題材や装飾などにもとても多く使われてきた国を強く象徴する題材ということ、そして絶えることなくいつも日本人と共にあったということもあり、油絵にするには少々描きづらい、あるいはあまり向かない、などと要するにあまり『似合わない』とされてきたということがあります。

とはいえ、もちろん油絵で描いてはいけない、というわけではありませんし、表現方法というのは無限にあって良いはずですからね。 僕は好きなのもあって、これまで何枚も桜の絵を油絵で描いたので今回はその中のひとつを紹介したいと思います。

2013年に描いた作品なので、振り返るともう随分と前に描いた作品ですが、自分で気に入っているというのと、制作過程の写真が残っているとうこともあったので、1枚の絵が出来上がるまでを描き始めから順を追って見ることで、「私も描いてみたい」と思ったり、見てくれる人にとって、少しでも何かのキッカケになってくれたらと思ったのです。

そして以前にも書いた通り絵の描き方というのは千差万別で、描く人の数だけ違っていて良いものですので、兎にも角にも『好きなように』が大切です。 ですので今回紹介する制作過程も、僕が絵を描いてきたこれまでの間に、ああでもない、こうでもないと時には悩んだりもしながらなんとなく落ち着いた一例と思って見てもらえたらと思います。

制作過程

さくら 花弁 1
さくら 花弁 1

描き始めです。 昔、まだ10代、20代の前半の頃にはまず外でスケッチをして、それからそのスケッチを元に家に帰ってから油絵に描き起こしていく、ということをしていたのですが、ある時から敢えてスケッチをせずにメモがわりに写真を撮ることはあっても、なるべく記憶に残っている印象を元に好きに描いた方が面白いのではないかと思うようになり、時には少し脚色もしたりして絵を描くようになりました。

さくら 花弁 2
さくら 花弁 2

そんなに大きな画面のキャンバスでもないので、遠景にも少しあるものの、たくさんの桜の木は描かずに主体として2本の桜の木が画面にあるだけの構図にしました。 まずは例の如く土を顔料とした茶系の色で構図をとり、細かいところは気にしないで大まかに全体に絵の具が乗れば良しとして描き進めていきます。

そして全体に色が乗ればそこまでが初日の制作です。 少し生乾きで描き進めたい時もありますが、今回は土台としてしっかりと絵の具に定着して欲しいので、この後次回の制作まで少なくとも丸2日以上は置くとします。

僕は特にこれでなくてはどうしても描けない、というような強いこだわりは油絵の具に対して持ってはいないのですが、それでもそれぞれのメーカーには個性があるので、どちらかというとこれを使うかな、というのはやっぱり多少あるかもしれません。

パリで手に入りやすいということもあり、少しこってりとした質感が好きなので、この10年くらいはフランスのセヌリエ(Sennelier)という老舗メーカーのものを使うことが多いです。

さくら 花弁 3
さくら 花弁 3

2回目。 仕上げの段階に向かって明るい色になるので、この時点では全体のバランスを考慮しながらも今後に乗せる色が映えるようにトーンを少し抑えながら少し燻んだような色で描きます。 

少し遠くにある桜の木も遠景に描き加え、さらに遠くには少し脚色して淡くも明るい光ある色を置いて空間を表現します。 

さくら 花弁 4
さくら 花弁 4

しっかりとした木の幹、そして枝を描き入れます。 実際には存在しない輪部の太く濃い線も脚色、というよりは僕の表現方法ですね。

花があるところと無いところによって見え隠れしている部分があることを想像して枝を描いていきます。

さくら 花弁 5
さくら 花弁 5

3回目。 この辺りから色調を明るいものにしていきます。 桜の花を透かして見えるブルーの空と桜の花の彩度の高いピンク色、そして遠景の明るいところ。。

さくら 花弁 6
さくら 花弁 6

4回目。 そしてさらに全体的に明るくも木の幹は少し暗めの重い色にして描き進めたら、このまま一度またしっかりと乾かします。

マスキング

5回目。 乾燥の早いアクリル絵の具や水彩画ではよく使われるマスキングの技法は、油絵ではあまり一般的に使われるものではありませんが、僕の場合は油絵の具でも比較的絵の具の層が薄く、乾燥するのも早い上に画面も凹凸のない平面なので、けっこう頻繁にマスキングテープを使います。

さくら 花弁 7
さくら 花弁 7

マスキングテープをハサミで桜の花びらの形に切り抜いて、全体的なバランスを見ながら乾燥した画面に貼り付けていきます。 

多過ぎてうるさくならないようにしながらも、たくさん貼り付けたいので、ペタペタと貼っていきます。 

(ちょっと楽しい瞬間です。。)

さくら 花弁 8
さくら 花弁 8

6回目。  花びらの形のマスキングテープの上からさらに色を重ねていきます。 ピンクの色もだいぶ明るく彩度の高い色になって、もうほぼ終盤の色です。

さくら 花弁 9
さくら 花弁 9

7回目。 かなり赤に近いようなピンク色も所々に混ざって、枝の間に覗く空のブルー、そして中央に抜ける遠景とのバランスもだいぶ取れてきました。 

あとはこの次に描く、舞い散る桜の花びらが絵をさらに面白くしてくれることを想像して次回を待ちます。

さくら 花弁 10
さくら 花弁 10

8回目。 マスキングテープを剥がし、花びらの形の残ったところをシルバーホワイトをベースに作ったピンク色でベタ塗りするように薄く描きます。 シルバーホワイトは乾燥が早く、ある程度の堅牢性もあるのでこうした時にとても都合が良いです。

さくら 花弁 11
さくら 花弁 11

花びらを描いたところで今度は、細い筆を使って花びらの輪郭を浮き立たせるように濃いめの色で細い線をかき入れます。

この時に使う筆は、小回りの効く丈の短い水彩画やアクリル絵の具用のリセーブルやナイロンの毛のもの、あるいは日本画用の面相筆(めんそうふで)もなかなか使い勝手が良いです。 

天然のコリンスキーの毛の最高級の軟毛の筆というのもありますが、使っていくうちに穂先がまとまらなくなったら結局は使えなくなってしまうので、むしろ安価なものを定期的に買い替えながら描くほうが賢いと言えるでしょう。 

それに加えて上手に選べば安価なナイロンの毛の筆でもクセがなく穂先がまとまりやすくて使いやすいということも言えます。

さくら 花弁 12
さくら 花弁 12

9回目。 ここまで来れば完成はもう直ぐそこです。 今度はシルバーホワイトから透明感のあるジンクホワイトにベースを変えて、もう1段階淡く明るいピンクの色を花びらの上に重ねます。

木に咲く桜と舞い散る花びらの彩度を変えたことで花びらが少し手前に見えるように浮き上がりました。

さくら 花弁 2013年作品
さくら 花弁 2013年作品

『さくら 花弁』 仏題 Les Pétales du Cerisier  

38×46cm カンバスに油彩 2013年作品

10回目。 最後にさらに白に近い淡いピンクにパールホワイト(雲母を顔料に使った真珠のような透明感のある白)を含んだ色で花びらを塗り重ね、輪郭にもわずかな明暗を付けながらもう一度なぞるように重ねたら花びらの出来上がりです。

もう一度全体的なバランスを確認し、手直しの必要がなければサインを入れて完成とします。

サイン(署名)は絶対にしなければならない、といった義務的なものではありませんので絵の邪魔になるからという場合には無理にする必要はありません。 サインを入れる場合にもまた決まった規則のようなものはありませんが、できたら絵のどこかに使われている色か、それに近い色で、目立ち過ぎ無いようでいてどこか絵自体を引き立てるようなものが理想的かと思います。 よく「サインも絵のうち」と言いますので。。 

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