ラタトゥイユ 南仏の陽光に包まれて。

太陽と大地の恵み、ラタトゥイユの野菜たち。
太陽と大地の恵み、ラタトゥイユの野菜たち。
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燦々と輝く夏の南フランスの太陽。

パリに来たばかりで間もない頃に知り合った少し年上の友達に、パティシエ (お菓子職人)の、太一君というのがいました。 

太一君の実家は山口県の柳井市で代々『三角餅』という銘菓を作り続ける『藤坂屋』という老舗の和菓子屋さんで、国木田独歩の作品『置土産』にも出てきたんだよ、とよく僕に話してくれていたことを今でも良く覚えています。

6月から9月にかけては晴天の日が多くなるパリの街も、例年を通して見ると曇り続きでどんよりとしている日がとても多いです。 その反動もあってなのか、夏になるとフランス人は一斉に、より強い太陽の光を求めて南下し、楽しみにしていた長いバケーションを満喫します。

特にラピスラズリのように輝くアジュール・ブルー(Azur bleu)の海が広がるコートダジュール (Côte d’Azur)と呼ばれる南仏の海岸沿いの街々は、その夏を待ちかねていた多くの人々で賑わいます。 

2005年の夏、太一君はコートダジュールの街、アンティーブ(Antibes)にあるパティスリー『Cottard』(コタール)というお店で修行のために働いていました。 

それはかつて太一君がまだフランスに来たことがない十代の頃、日本の新聞の小さな記事を見て知ったお店で、いつかきっと働いてみたいとその記事を読んだ時から思っていたそうで、何度か断られたにも関わらず、頼み込んで働かせてもらえるようになったと言っていました。

「泊まれる場所もあるし、いつか機会を作って遊びに来なよ」と言ってくれていたこともあって、その夏の8月のある日、僕は旅費の安い深夜の列車に乗って太一君に会いに行くため、パリからアンティーブの街へと向かったのです。

そうして確か、朝の6時半前にはアンティーブの街へと到着したように思います。 

初めて訪れるアンティーブの街は、もうすでにだいぶ明るく、遠くから微かに聞こえてくる波の音を頼りに一直線に歩いて行くと、目の前に広がった朝の優しく輝く海があまりに綺麗で感動したのを今でも良く覚えています。 

太一君との約束の時間まで、海沿いの風景に目を奪われながら一人歩いたり、スケッチをしたりして、少しのあいだですが、朝の波の音だけが聞こえる静かで心が洗われるような時間を過ごしました。

太一君は早朝から午後にかけて仕事に行っていたので、彼がいない時間帯には、アンティーブの街を散策したり、海岸で寝そべったり、電車に乗ればすぐだったので晩年のルノワール(Pierre-Auguste Renoir) が住んだカーニュ・シュル・メール(Cagnes-sur-Mer)に行って当時のまま残され公開されている彼のアトリエを訪れたりしました。

働くと言っても太一君は研修という形で働いていたため、お給料はまとまって貰うことができなかったので、本業の傍お小遣い稼ぎにパティスリーの主人からの紹介で、週に2日ほどお惣菜屋さんで働いていると言っていました。 

本来はパティシエである太一君ですが、そうしてその時にお惣菜屋さんで作って覚えたラタトゥイユを、一緒にマルシェで見つけた野菜を使って作ってくれたのです。

当時は僕も太一君もレストランに行けるほどのお金を持ってはいなかったので、ふたりで安いワインを買ってキッチンで一緒に飲みながら、新鮮な夏野菜を使ったラタトゥイユを作って見せてくれたのは、お金はかけずとも何か南仏らしい料理を僕に作ってあげたいと思ったからだそうで、今でもラタトゥイユを見る度にその時のことを思い出します。

ラタトゥイユはもともとニースからプロヴァンス地方にかけての郷土料理ですが、簡単なのもあって南仏のみならずどこの地方でも頻繁に作られているフランスの家庭料理の一つです。 

そのため家庭によって野菜の切り方だったり、鍋に入れていく順番が違っていたりして、つまるところ日本でいう『肉じゃが』のように『家庭の味』があるというわけですね。

ラタトゥイユは、言ってしまえば野菜のごった煮なので、何も難しいことはなく、大きなお鍋にオリーブオイルで玉ねぎとニンニクを炒め、硬いものから順番に夏野菜を入れてプロヴァンスハーブと一緒に煮込めば出来上がるのですが、今回は経験を活かし、ほんの少しだけ手間を加えて、彩り少しお洒落なラタトゥイユを作ってみたいと思います。

彩豊かなラタトゥイユのつくり方。

材料の下準備 トマト パプリカ

ほんの一手間ということで、まずはトマトを湯剥きにします。 皮付きのままでももちろん美味しく食べれますが、薄皮をとることで口当たりはさらに良くなります。 

包丁やエコノムの先を使って芯の硬いところをくり抜くように取り除き、反対側にはあとで皮が剥きやすくなるよう十文字に切れ目を入れておきます。

しっかりと沸騰したお湯に1分ほど入れたら、冷たい水に引き上げます。 この時に沸騰しているお湯に対して一度に多くのトマトを入れてしまうと簡単に皮が剥けるようになる前に温度が下がってしまうので、トマトの量に応じて2度か3度に分けてするとやりやすいです。

熱湯に潜らせた後は簡単に皮が剥けるようになるので、皮を向いたら適当な大きさの賽の目に切ります。 

トマトの次はパプリカの下処理です。 最初に芯の周りに沿うように包丁で切れ目を入れ、芯の部分を外します。 窪んでいるところに合わせて切り出すと、タネと白い部分が包丁で取り除きやすい位置に来るので、パプリカをゆっくりと回すように動かしながら包丁を使って余分なところを取ります。 

余分な部分を取り除いたらピーラー、あるいはエコノムを使って薄皮を剥きます。 トマトと同様にもちろんパプリカも皮をも食べることができますが、今回パプリカは彩りを出来るだけ残したいのであまり長くは煮込まないため、薄皮がフィルムのように口に当たるのでしっかりと取り除き、薄皮を剥いたら1、5センチ角ほどに切ます。

エコノム ピーラーと同様に使いますが、先の方を使って野菜の芯をくり抜くのに利用できたり、小回りが効き、とても使いやすく便利なので是非探してみてください。

ズッキーニ ナス ニンジン 玉ねぎ ニンニク

ズッキーニ、ナス、ニンジン、玉ねぎを賽の目に切り、ニンニクはみじん切りにします。 

ズッキーニは頭とお尻の先を取り除いてから縦に4等分にし、細かいタネのある中心部を少し和食でいうところの『面取り』をするように切ると後で見栄えが良くなります。

ナスは火が入るとだいぶ小さくなるので他の野菜よりもひと回り大きな賽の目に切ります。

ラタトゥイユの材料を切り終えました。
ラタトゥイユの材料を切り終えました。

下準備を終えた材料が揃いました

全ての野菜を切り終え、下準備の終わった材料が揃いました。

ズッキーニトマトナスニンジン玉ねぎパプリカニンニク濃縮トマトプロヴァンスハーブ、そしてオリーブオイルです。

野菜にはもちろん個性があり、焼いたり煮込んだりする上で一番美味しいと感じる温度や火を入れる時間はそれぞれ異なります。 

味だけを取ってみれば、基本的には長く火を入れることで、どの野菜も甘味が出て美味しくなりますが、今回は美味しいと感じる『食感』も残しつつ『視覚的』にも綺麗なラタトゥイユにしたいので、出来上がったときに各野菜が足並みを揃えるように、それぞれ最も良い火の入り加減になるように作りたいと思います。

火入れ

ナスを炒めます。
ナスを炒めます。

ナス まずはフライパンを温め、ナスを焼きます。 特にナスは高温で調理することで美味しくなりますので、他の野菜の後に生のナスを直接鍋に入れて煮込むよりも、こうして別に前もって高温でしっかりと香ばしく焼いてあげることによって、よりナスの美味しさを引き出すことが出来るというわけです。

はじめにオリーブオイルを入れてからフライパンを高温にすると、オリーブオイルが酸化してしまうのと同時に、ナスを入れたときに跳ね返った熱いオリーブオイルで火傷をしてしまうことがあるので、まずはフライパンを温め、少しオリーブオイルを入れたら直ぐにナスを入れ、薄く塩を降ったら温度をあげてさらにオリーブオイルを足してあげると安全に焼くことができます。 

ナスは油との相性がとても良いので、ここではオリーブオイルが全面に行き渡るよう少し多いかな、と思うくらいの量を入れてあげると良いです。

ナスに火が入り、淡く焼き色がついた頃を見計って一度お皿か何かに取り出します。

ズッキーニ ズッキーニも同様に一度フライパンで焼いて香りを出しますが、ナスに比べて火が入るのがとても早い上、今回は食感と色をしっかりと残したいので、温めたフライパンで軽く塩を振り、オリーブオイルで薄くコーティングしてあげるだけのような感覚で、ほんの1分ほどさっと炒めて取り出します。

パプリカ パプリカもズッキーニと全く同じ容量でさっと炒めます。 いろんな色のパプリカがありますが、せっかくなので好きな色のものを使いましょう。

玉ねぎとニンニクから

ここまでくれば完成はもうそこまで。 遠くはありません。 

フライパンにオリーブオイルを引きなおし、玉ねぎとニンニクを入れてヘラを使って時折かき混ぜながら、焦がさないように中火で炒めます。 

だんだんと玉ねぎが透きとおってくるので、透きとおり始めたタイミングで今度はニンジンを入れます。

ニンジンにある程度火が入り始めたら、湯剥きして切っておいたトマトを足し、塩をひとつまみ入れ、かき混ぜたら蓋をして、野菜自体から出てくる水分を利用してしばらく中火でコトコトと煮込みます。(20分ほど) 後半の5分くらいは蓋をせずに少し水分を飛ばしてあげると、お皿に盛り付けたときに水っぽくならずに味も良くなります。

先ほど別で焼いておいたナス、ズッキーニ、パプリカ、そして濃縮トマトとプロヴァンスハーブを入れたら、よくかき混ぜ、さらに蓋をしてもうほんの3分ほど煮込みます。 

すでに全ての野菜はいつでも食べれる状態なので、最後に少しだけ一緒に火を入れてあげることによって『繋いであげる』という感じで火を入れたら、火を止めます。 

火を止めてからも余熱でしばらくの間は火が入り続けるので、全ての材料を入れた後に一度しっかりと、粗熱が取れたときには全体的に火の入り加減がちょうど良くなります。

味見をして、ちょうど良い塩加減になるように塩を足して、お好みで胡椒を加えたら完成です。

完成

ラタトゥイユが出来ました。
ラタトゥイユが出来ました。

『彩豊かなラタトゥイユ 』

盛り付けたら温かいうちに召し上がれ。 彩豊かなプロヴァンスハーブの香り漂うラタトゥイユの完成です。 

出来たらお家にあるものの中から、一番大きな鍋を使って、一度にできるだけたくさん作ることをおすすめします。 ラタトゥイユは日持ちもしますし、シンプルなので飽きもこず、温かいままパスタと合わせてもいいし、お肉やお魚の付け合わせとしても使えます。

夏の暑い日には冷蔵庫でよく冷やして冷たいまま『冷製』として食べても美味しいので、食べ出すと直ぐに無くなってしまいます。

今回はラタトゥイユを作るのにもっとも一般的な材料を使いましたが、お好みでオリーブの実を入れたり、唐辛子を入れて少し辛くしてみたり、自分好みにアレンジすると良いと思います。

それではまた。 ボナペティ!!。

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