油絵を描こう 7

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リンゴの絵 4回目(終)

リンゴの絵 13
リンゴの絵 13

前回の終了時。

油絵の具の大きな利点

少し横からの角度から。
少し横からの角度から。

前回の、油絵を描こう 6から2日、画面はまだやっと指触乾燥が終わりかけというところで完全には乾いていない状態です。 ですが色が馴染みやすいのであえてこのタイミングでそのまま仕上げに向かいたいと思います。

こうして油絵を描く過程で、完全に乾燥した色の上に新たな絵の具を塗り重ねるのか、あるいはまだ生乾きの状態の上に描くのか、という絵の具の乾くタイミングによって、後から乗せる筆のタッチが変わるところが油絵の面白いところです。

たとえばアクリル絵の具などは極めて速乾性で、制作が早く進められるという利点がありますが、油絵の具の場合には乾性油が酸素とゆっくりと結合して乾燥に至るので、とても時間がかかります。 

しかし乾燥に時間がかかるという事は、実はむしろ油絵の大きな利点なのです。 

たとえばこんなことがあります。 ある夜、集中して描き進めた絵が、翌朝に起きて見てみると、どうにも昨夜と印象が違って見えてしっくりこない。

昨夜眠る前には「今日はよく進んだな」と満足していたのにどうしてだろう? 

もちろん絵そのものは、昨夜から何も変わっていません。 

つまり昨夜から変化したのは自分自身の感情や感性であって、それによって自らの絵を見る受け止め方が変わったということなのです。 

人の感情や感性は、目に見えなくとも揺れ動くように刻々と変化しています。 

その変化とともに急ぐことなく一枚の絵と向き合う。 そうすることで出来上がった作品は、たとえどんなに時間を経たとしても、何度でも人の目に触れ続ける価値のあるものへとなりえるのです。

この現代社会において日常そこら中で目まぐるしく行き交う膨大な情報量の中、たった一枚の絵をコツコツと描くことは、もしかしたら合理的ではなくナンセンスなのかもしれません。

しかしこうした時代だからこそ、むしろゆっくりと自分自身と向き合う時間を少しでも持つべきなのではないか、と思うのは、きっと僕だけではないはずです。

それではいよいよ仕上げに

リンゴの絵 13
リンゴの絵 13

今回も例に漏れず背景から描き進めていきます。 

これまで重ねた色と新しく乗せる色のそれぞれが、お互いを活かし合うような筆運びを意識することが大切です。 

リンゴの絵 15
リンゴの絵 15

新しい色が、元あった色を完全に覆い隠すことなく所々に見えるくらいの方が面白みのある味わい深い色合いになります。

最後に乗せる明るい絵の具

リンゴの絵 16
リンゴの絵 16

リンゴと影にも同様、先に置いた色を上手に活かしつつ、最も明るく彩度の高い部分に最後の層になる絵の具をリズムカルに乗せていきます。 

明度、彩度ともに明るい最後に乗せる絵の具は、ジンクホワイトを含め、多くも3色以内の混色に留めることを心がけると濁らずに明るい色の表現が出来ます。

リンゴの絵 17
リンゴの絵 17

バーントアンバーとウルトラマリンブルーを基調に、濃いリンゴのヘタを描き込むと、またリンゴらしさが戻ってきました。

ハイライトの小さな光を入れ、最後に全体のバランスを見ます。 

一通り見て特に気になるようなところや特別に直したいところが無く、良い感じになったかな、と思えたらそこが筆の置き所です。 

細部にこだわり過ぎて何度も手を加え過ぎて濁ってしまったり、一番雰囲気が出ていた瞬間を壊してしまうこともあるので、しっくりきたと感じた時に終わりにするというタイミングはとても大切です。

リンゴの絵 完成。
リンゴの絵 完成。

『五つの小さな林檎』

19×24cm  キャンバスボードに油彩  2020作

サイン

最後にサインをして完成です。 

サインの仕方や大きさはもちろん自由ですが、『サインも絵のうち』というくらい画面の中で視覚的に大切な要素になるので、できたら少し拘ってみるのも良いかもしれません。 

絵自体の雰囲気を壊さないよう目立ち過ぎては駄目ですが、調和の取れたものであるなら理想的です。 僕はこの黄色味を帯びた赤いリンゴの反対色である青緑色でサインをしました。 

サインはもちろん絶対に入れなければならないというわけではありませんが、最後にサインを入れる事で画面全体が締まり、見栄えが良くなるという事は挙げられます。 

これはたとえば『書』や『日本画』などの落款印や署名と同様に、作品の完成を示すものでもあります。 

僕の場合には一度サインを入れたら、たとえ万が一あとで手直しをしたくなったとしてももう手を加えないことにしています。 

なぜならサインをしたその瞬間の自分の完成をリスペクトしたいと思うからです。

リンゴの絵を描き終えて

こうして文章と写真とで、一枚の小さな絵が完成するまでの過程を紹介しましたが、油絵の技法としてはやはり一例に過ぎません。 

今回はどちらかと言えば一般的と言える、4回に分けての制作でしたが、たとえばゴッホやマティスのように情熱のまかせて一気に1日か2日でググッと絵の具を乗せて瞬く間に作品を仕上げてしまったり、あるいは18世期の絵のように緻密にコツコツと仕上げていく絵など、一口に油絵と言えどやり方は多種多様で何が『正解』ということはありません。

また、9色のみを使って一枚の絵を描くという試みをしたのも、これを読んでくれた人がまずは「これなら私にも出来そうだからちょっとやってみたい」と思えるキッカケを作れたらと思ったのと同時に「もっといろんな色を使って描いたら、もっと素敵な絵が描けるんだろうな」という『想像力』を膨らませてもらえたらと思ったからです。 

やはり9色の中からの混色ではいかにいろんな色が出せるとは言え、どうしても表現できない色というのもあります。 たとえばコバルトバイオレットという鮮やかにして深く気品のある紫色、レモンイエローという今回使ったジンクホワイトとパーマネントイエローを混ぜただけではできない夏の太陽を思わせるような鮮烈な黄色。 

更にいろんな色の絵の具を加えることで表現の幅は無限に広がります。 そして同じ名前の色でもメーカーによって色合いや絵の具を練る油にも違いがあるので、いくつか試してみても良いでしょう。

今回は5つの小さなリンゴという、とてもシンプルな題材でしたが、同じ静物画でも模様の入った食器や花を一緒に描いてみたり、風景を描いてみたり、あるいはインターネットから好きな題材を拾ってくるのもまた一つの方法かもしれません。

まずは自分自身が思うまま、そして心地良いと思える制作時間を過ごしてみることが何より大切です。 

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