油絵を描こう 4

五つのリンゴ
モチーフ用にと買った小さな5つの可愛いリンゴ。 遠目から一見すると、プラムと見間違えるほど小さなリンゴです。

実践。

それでは描き始めです。 はじめの目標として、まずは油絵の具を使ってみることで感覚的に慣れ、使用後に道具を片付ける、ということが一人で出来るようになるまでの一連の流れを解説していきます。 

練習ですので描く題材は、思い付くものがあればなんでも構いません。 空想の風景でも良いですし、思い浮かんだ色や形でも良いです。 

目に見えるものの方が良いなら、台所から好きなグラスやお皿を持って来て描いてみるのも一つの方法です。 僕はどんなものを例に出せば説明がしやすいかと考えたところ、朝のマルシェ(朝市)で見つけた、とても小さくて可愛いリンゴを描くことにしました。 つまりは静物画ですね。 

セザンヌの話

少し余談ですが、リンゴを描くと思い浮かべるのはポスト印象派の画家、セザンヌです。 彼はリンゴだけで世界をあっと言わせてやろうと言い、そして実際に大きな評価を得るに至りました。 

僕が若い頃に聞いた話ですが、セザンヌの描くリンゴの静物画はそれほどに人気と評価が高く、『リンゴひとつ一億円』などと表されるくらいだったそうです。 そんな話を聞いた後、実際に美術館でセザンヌの静物画を見るとつい、リンゴがいくつあるのかを数えてしまって、「このセザンヌの静物画にはリンゴが15個も描いてあるぞ」なんて思ったことがあります。

静物画のすすめ

静物画の良いところは、なんと言っても目の前に実際にあるものを置いて、ゆっくりと見据えて描くことが出来るということです。 例えばどこか素敵な風景のあるところに出向ていって、イーゼルを立てて目の前の風景を描くことはとても気持ちが良いですが、時として天候に邪魔されたり、刻々と移り変わる光の早さについて行けず、描くのが難しい、なんていうことがあります。 

その点、静物画を描く時には自分が用意して並べたものに、同じ角度と条件で照明を当てて対象物をじっくりと見ることが出来るので、時間を気にすること無く集中して描くことが出来ます。 ただ花瓶に生けた花や、食べ物なんかを描くときにはもちろん、時間が経つにつれて傷んできてしまいますので、最初の一番鮮度の良いときに、あとで参考に出来るよう写真を一枚撮っておくのも良いでしょう。  

今回、説明のために描く絵なので、僕はF2号の小さなキャンバスボードに描きますが、少し窮屈を感じる人もいると思うので、練習用とはいえ、F4号、あるいはF6号以上の大きさのキャンバスか、キャンバスボードに描くことをおすすめします。

リンゴとキャンバスボード
小さなリンゴとキャンバスボード

キャンバスボードです。 大きさはF2号(24×19cm)で、値段は3、5ユーロ(2020年6月の時点で420円ほど)でした。 

キャンバスに模した加工がされたしっかりとした厚口の紙で、安価に手に入れることが出来る上に嵩張らず、油絵の具以外の画材でも描けるのでちょっとしたスケッチ旅行にも持っていけますし、額にも入れることが出来るので、枚数を描きたい人にも重宝されます。 

木炭での下書き、線取り

教科書通りであるなら、まず修正の容易なデッサン用の細い木炭を使って絵の構成を組み立てる、線取り(下書き)をします。 描く対象物をキャンバスにどうとらえるか、まず大まかな形や線を描いていくのです。(油絵の下書きに木炭を使うのは、鉛が原料である鉛筆は、一部の顔料と化学反応による変色をしてしまうからです。)

その後フィクサチーフという画用液を霧吹きで拭いて(近年はスプレー缶のものが主流です。)木炭をキャンバスに定着させ、その後油絵の具で色を重ねていくのですが、モチーフのリンゴがシンプルなので今回は割愛します。 

リンゴの絵 デモンストレーション

リンゴの絵 1
リンゴの絵 1

まっさらなキャンバスボードに、画用液で緩く溶いたイエローオーカーで色を乗せます。  

この瞬間、何もない真っ白な面に、『空間』が生まれます。

初期の段階でイエローオーカーを使うのは、かなり一般的な方法です。 まず基本的に土を顔料とする茶系の色は堅牢性も高く、比較的に他の色と比べて安価な上、絵の具の層の下層で土台を作るには、とても都合が良いのです。 その茶系の絵の具の中でも明るい色のイエローオーカーは、描き始めから後半にかけてとても出番の多い、欠かせない色の一つです。

初期段階での画用液

今回の描き始めの画用液は、テレビン油とペトロールをおよそ1:1くらいで割ったものです。 ペインティング・オイルを使う方は、目安として、ペインティング・オイル1に対してペトロール1から1、5くらいで希釈すると良いと思います。 

最初からテレビン油だけを使って描き始めるという方も多いですが、テレビン油にも固着力はある程度あるので、こうしてかなり絵の具を希釈した際に、テレビン油だけですと、次回、乾燥後の画面に絵の具を重ねるにあたり、表面がツルツルしてしまって絵の具のひっかかりが悪くなることがあるので、僕はペトロールでテレビン油をさらに希釈したものをおすすめします。 

あまりチューブから出した油絵の具を、こうした固着力の無いペトロール主体の揮発油だけで多く緩めると、絵の具の顔料が剥き出しになってしまって固着力が弱くなるという見方もありますが、後々重ねる油絵の具が含む乾性油が染みこんで土台を作り、後半にはしっかりとした画面になって絵が完成するので、心配はありません。

リンゴの絵 2
リンゴの絵 2

5つのリンゴを画面にバランスよく捉えます。 こうした小さなサイズの画面でも画面の大きさを最大限に活かしたでバランスを考える事で、しっかりと空間を表現することができます。

ここまではイエローオーカー1色です。

正確に描き写す、というよりも、大まかに雰囲気を出すという気持ちで描きましょう。 正確に描写することに神経を使うよりも、リラックスして楽しく、に的を絞るくらいの方が、出来上がったときの絵が良くなります。

注意として、描き初めのこの段階では画用液の揮発性が高いので、完全に締め切った状態の部屋では描かずに、意識して窓を定期的に開放し、空気を入れ換えるようにしてください。

リンゴの絵 3
リンゴの絵 3

次のステップで、イエローオーカーに加え、クリムソンレーキバーントアンバー 、そしてアクセントにウルトラマリンブルーを足し、パレットの上には全部で4色の色が並びました。 

リンゴもこうして、まじまじと見ると、いろんな色が隠れているのがわかりますね。 赤い色が強いところとそうでないところ。 色が移り変わる境目の淡いピンク、光が当たって白く見えるところ。 じっと観察し続けていると、その内それぞれ違う表情のリンゴに、愛着すら湧いて来ます。

リンゴの絵 4
リンゴの絵 4

さらに同じ4色で描き進めます。 はじめは自分から遠いところ、つまりは背景から描き進めるようにしましょう。 もちろん絶対に背景から描き進めなければならないということはありません。 ただ都合として、後から置く筆跡の方が、より手前に見えるので、やりやすいということです。 

背景

実際にはテーブルに置いてあるリンゴなので、テーブルの端を地平線のように描いても良いですが、とても小さな絵ですし、すっきり何もない方が良いかな、ということで背景には何も描かないことにします。 

とはいえ、背景はこうした静物画では雰囲気をとても大きく変えるので、なるべくならリンゴそのものを引き立てるような色合いにしたいですね。 背景の所々にリンゴの赤に使ったクリムソンレーキや、ウルトラマリンブルーを織り交ぜておくと、それが後々アクセントになって、より深みのある色にしてくれます。 

リンゴの影の部分には、バーントアンバーに少しウルトラマリンブルーを混ぜて暗い色をつくり、リンゴの赤みが強く、濃くなっているところの色は、クリムソンレーキにウルトラマリンブルーを混ぜて表現します。

ヘタの部分を描くと、やっぱりリンゴらしくなりますね。 と、これで画面全体に色が乗ったので、今日のところはここで筆を置くとします。 今日、描き進めた絵は、次回まで誤って触れて絵の具がどこかに着いてしまわない風通しの良いところに保管しておきましょう。

あと片付け

さて、今日の制作が済んだら、道具の片付けです。 使った道具をちゃんと片付けておくことで、次回の制作も気持ち良く運ぶ事ができる上、道具も長持ちしますので、おろそかにはできません。

パレットの掃除

まずはパレットをきれいにします。 残った絵の具をナイフでかき集め、拭き取ったら、今日使った画用液を少量垂らして擦り込むようにしてパレットを磨きます。 毎回使用後にこの作業を繰り返すと、だんだんとパレットが味わい深い色になってきます。 

クリムソンレーキなど、乾くのにとても時間がかかる色(メーカーによっては乾燥促進剤が入っていて早く乾くものもあります。)は、パレットの端に残しておいても数日は使えるので、もしも充分に次回も使う事ができそうな量が残っていたら、取っておいてもいいでしょう。 

また、少し特別な方法としては、使わなくなった小皿の端に、残った油絵の具をナイフで並べていき、それを水を貼った容器に沈めるという方法もあります。 こうする事で油絵の具が酸素に触れる量が大幅に減るので、乾燥を遅れさせる事で数日後にまた水から引き上げてパレットに油絵の具を戻せば、再度使えるというわけです。 

筆の掃除

次は筆の掃除です。 使用後、絵の具を残したまま放置しておくと、そのまま固まってしまい、剥離用の溶剤(ストリッパー)を使って根気よく時間をかけて絵の具を落とさない限りは、使う事が出来なくなってしまうので、使い終えたらすぐに洗っておく必要があります。 

まず、筆に残った絵の具をできる限りボロ布や紙で拭き取ります。 その後、クリーナーかペトロールの入った筆洗器で洗い、洗い終えたら一度よく拭き、最後にぬるま湯と石鹸で洗います。 この時に直接水道から出る水やお湯で筆を洗い流すと洗面台が汚れてしまうので、はじめによく泡立てた石鹸で毛先を包み込むようにします。 

そうして掌の上で『の』の字を書くようにして洗います。 そうする事で毛先が絡みにくく、次回使うときに毛先がまとまらなくて描きづらい、という事が起こりにくくなります。

石鹸を流し終えたら筆を包み込むようにしてよく拭き、風通しの良いところで乾かします。 動物の毛の筆の場合には人間の髪の毛と同様、保湿効果のある筆専用の石鹸が画材屋さんに置いてあるので試しても良いと思いますが、普通の石鹸でもなんの問題もなく洗う事が出来ます。 そういえば昔、シャンプーとリンスでも試した事がありますが、香料の匂いが不自然に残っていて、どうもしっくりしなかったので以後使ったことはありません。

最後に絵の具や、揮発性の油を含んだボロ布や紙を捨てたゴミ袋を、空気を抜くように押し縮めて口を結んで捨てましょう。 そのまま放置して寝てしまうと、朝起きた時に部屋中が揮発性油の匂いで充満していて気分が悪くなってしまった、などという事がありますので片付けを終えた後も必ず空気の入れ替えをするようにしてください。

それではまた次回、お疲れ様でした。

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