油絵を描こう 2

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油絵に使う画材

『油絵』をやってみたいけれど、まずは何から買い揃ればいいんだろう

油絵教室、第2回目は油絵を描く時に使われる画材のおおまかな紹介と説明をします。出回っている物を完全に網羅するととてつもない量の情報になるので、とりあえず今回は誰もがわかり易く始められることを第一に書いて、また時を見てそれぞれ詳しく深掘りした説明をしていけたらと思います。

油絵の具

『油絵』というくらいなので最も欠かせない主役ですね。 細かく砕き、粉状に挽いた顔料(ピグメント)、そして乾性油が主な成分ですが、ある程度の硬さを持たせるために体質顔料(樹脂など)を加えて練って作られます。

もともとはリンシードオイル(亜麻仁油)で練られることが多かったようですが、今日画材屋さんでより多く見かけるのは黄変の少ないポピーオイル(ケシ油)やサフラワーオイル(紅花油)で練られたものです。 現在のオランダ周辺で発祥したと言われる油絵の具の歴史は長く、500年以上も前から続いていて、皆さんもよく知っているレオナルド・ダ・ヴィンチのモナリザも油彩で描かれたものです。

今日、画材屋さんで売られているチューブに詰められた油絵の具が実際に売られ、使われるようになったのは19世紀半ばを過ぎたあたりからで、大昔には画家自身やその弟子がアトリエに顔料を仕入れ、それを砕き、乳鉢でさらに細かくして大きな大理石のパレットの上で油と練り合わせていました。

練られた絵の具は乾燥させた豚の膀胱に詰めて紐で結んだり、ガラスの容器に入れたりして保存していましたが、空気との完全な遮断には至らないため、どうしても時間が経つとゆっくりと固まってきてしまうので一度練り上げた絵の具は長期保存が効かず、なるべく早いうちに使い切ってしまわなければなりませんでした。そこで鉛(なまり)のチューブが発明されましたが鉛は一部の顔料と触れると化学反応で顔料が変色してしまうため、チューブの内側に鈴(スズ)でメッキをすることでこの問題を克服し、今現在の形で商品として売られるようになったのです。

はじめに揃えたい油絵の具

日本のメーカーに海外のメーカー、大きさの違うチューブにたくさんの色数、大きな画材屋さんに足を運ぶと本当にいろんな物が並んでいるので、どれを買えば良いのかきっと悩んでしまうかもしれませんが、もちろん初めからすべての色を揃える必要なんて全くありません。

数十色から中には150を超える色数を取り揃えるブランドもありますが、かの色彩豊かなルノワールの作品、ムーラン・ド・ラ・ギャレットはおよそ9つくらいの数の絵の具しか使われていないという話もあるくらいなので、とりあえずは基本色を中心に12色から15色くらいの色が入った箱入りのセットを買えば十分です。あとは描き進めていくに従って、使ってみたい色が出てきた時に買い足せば良いのです。

予算が許せば、せっかくですので本物の顔料を使った専門用と書かれたものをおすすめします。それは大切に残したいと思える作品が出来上がった時、変色や退色をしてしまうことなく出来上がった時のままの色であって欲しいからです。ヨーロッパの老舗ブランドはもちろん素晴らしいですが日本のメーカーが作る油絵の具もとても優秀です。

丸筆平筆、平筆を使い込んだ形にあらかじめ使いやすく形取られたフィルバード、そしてファンと呼ばれる扇状の形のものがあり、大きさや毛の材質、長さにも様々なものがあります。 大きさによって2、4、6、などと番号が振られていて、大きい番号であるほどに大きな筆になりますが、日本国内外ともに各メーカーに共通した規格が設けられているわけではないので、同じ番号であってもメーカーによって大きさは多少異なります。 

オックス、イタチに貂(テン)、タヌキなどの動物の毛、ナイロンやリセーブルと呼ばれるナイロンと獣毛の混合の筆もあります。ですが、油絵に最も多く、そして基本的に使われるのはなんと言っても豚の毛です。豚毛は最もコシが強く、毛先が二股、三股に分かれていて絵具の含みが良く、パレットからキャンバスにリズム良く絵具を運ぶのにとても適しています。 おそらくは寒いが故に毛足が長くなるためか、豚毛の産地は中国の良質のものが最高とされています。 僕のおすすめは書道用の筆など筆を専門で作っている筆屋さんが作っている油彩用の筆です。

はじめに揃えたい筆

筆は最初4本から5本あればとりあえず始めることができますが、できたら8本から10本くらいはあるとそんなにこまめに洗浄しなくても良く、いろんな色の使い回しによる濁りも避けることができます。 4番あたりから6、8、10、12番くらいまで、大きさの違う豚毛の平筆を各2本づつくらい揃えると良いでしょう。平筆は角を利用することで細い直線を長く引くことができますし使い込むほどにだんだんとすり減り減ってきますが、それはそれで使いやすいフィルバードの形になってくるので終始とも非常に重宝します。 

豚毛の丸筆は好みによって細めのものは良いですが、少し太い丸筆になると使用後、洗う時に筆の中心部に溜まった絵の具が洗いにくいのと、同じ幅でも平筆の方がタッチの変化が出しやすかったりするので迷わずに毛足の長さが普通で豚毛の平筆のみで揃えると良いです。将来的にダイナミックな書道のようなタッチで描いてみたいという人は毛足が普通の筆よりも長いレタッチと呼ばれるものもあります。さらに細部を描いたりサインを入れたりする時のためのリセーブルかナイロンの小さな丸筆が1本か2本あると便利です。貂(テン)など天然の非常に高価な筆もありますが正直全く必要ありません。

ペインティング・ナイフ

ナイフと聞くと硬くて鋭利な刃物を想像しますが、油絵に使うペインティング・ナイフには刃はついておらず、薄くてよくしなり、パレットの上で絵の具を混ぜ合わせたり、または直接絵の具を運んでナイフで絵を描いたりと非常に多くの場面で活躍します。パレット・ナイフという名で幅広く面積の大きいものもありますが、大理石などの備え付け型の大きなパレットの上で大作用などに一度に多くの絵の具を扱う場合以外はそんなに使う機会もないのでわざわざ購入する必要はありません。

はじめに揃えたいナイフ

とりあえずは刃渡りが6センチから7センチくらいのあまり先の尖っていないオーソドックスなペインティング・ナイフが1本だけあれば充分です。長く使っていくとキャンバスの面やパレット上の絵の具と擦れることで研がれたようにだんだんと刃が付いてくるので、その時には新しいものに買い換えた方が良いでしょう。

画用液

乾性油

油絵と呼ばれるように、色の粉(顔料)をキャンバスにくっつける糊の役目を担っています。チューブの中の絵の具にも既に使われていますが、それをさらに緩く溶く時にも使う油で酸素と結び付く力の強い油が使われます。水彩絵の具が乾く時、水が蒸発すれば乾いたとなりますが油絵の具の場合は揮発油が揮発した後、乾性油が空気中の酸素とゆっくりと化学反応をおこして固まっていくことで丈夫な画面を作ります。(これを酸化重合と言います。)言葉の上では触れても指に絵の具が付かなければ乾いたと表現しますが正しくは乾燥、とは異なります。

最も使われるものとしてリンシード・オイルポピー・オイルがあります。リンシード・オイルはポピー・オイルに比べて早く固まり、強固な画面を作るのでとても理想的です。そして何よりキャンバスが麻であるなら相性もこれ以上ない最高のものになると言えるでしょう。唯一の注意点としては後に少し黄変しやすいということですが、その黄変自体を油絵らしいものと捉えるならリンシード・オイルはまさに素晴らしいです。太陽光に長い期間晒し透明度を高くしたものや煮詰めて濃縮したものもあります。ポピー・オイルはリンシード・オイルに比べて固まるのに時間がかかり強度もリンシード・オイルには及びませんがなんといっても黄変の心配がほとんどなく透明度が高いことから明るい色やパステル調の中間色の絵に合うかもしれません。もしも乾燥速度が遅すぎると感じた場合にはシッカチーフと呼ばれる乾燥促進剤を少量入れてあげるのも手です。その内また詳しく描きますが、油絵の魅力の一つには乾燥速度が遅いということもあります。

揮発油

さらっとした無色透明の液体でその名の通り短時間で揮発します。松脂(マツヤニ)を水蒸気蒸留して作られたテレビン油、精製石油のペトロール、異色なものだと揮発油の独特な匂いの苦手な女流画家、マリー・ローランサンが使ったことでも知られるスパイクラベンダー・オイル(僅かな量のエッセンスを抽出するのに大量のラベンダーを使うのでかなり高価)などがあります。テレビン油は揮発油でも乾性油には及びませんがテレビン油自体に絵具をキャンバスに定着させる力があるので良く序盤に使われます。柔らかいタッチで裸婦を描いた印象派の画家、ルノワールはテレビン油だけで絵の具を溶いて絵を描いたと言います。ペトロールはそれ自体には固着力が全くないので、筆の洗浄や絵の具を溶くのにも使いますがゆるく溶きすぎると顔料が剥き出しになってしまって固着力が弱くなてしまうので通常は他の油と混合して使う事が多いです。

クリーナー(筆洗油)と筆洗器

クリーナーは油絵の具を使い終えた後の筆を洗うのに使う石油系の揮発油で通常、筆洗器に入れて使います。 筆洗器は揮発性のクリーナーが揮発したり匂いを発しないよう蓋をすると完全密封になる容器で、容器の内部に筆をこすり付けて絵具を落とす場所が設けられています。

ある程度筆洗器の底に顔料が貯まったら中身を新しいものにとりかえます。ペトロールでも同じように使うことができる上、制作途中に一度筆をきれいにしたい、などという場合はペトロールで洗浄した筆を画用液の入っている油壺に直接入れても差し支えないので、そのまま中断することなく絵を続行できるペトロールは便利ですが、やはりペトロールは匂いが強く、気になるという人も多いので、その場合には日本のメーカーが作るほとんど匂いの無い無臭のクリーナーを利用すると良いでしょう。

ワニス その他

加筆ルツーセ 絵を描き進めていく段階で途中一度画面が完全に乾いてしまって乾く前の時の色調を取り戻す時に使う溶剤です。 まず使うことはあまりないと思うので、あるということだけ覚えておくくらいでいいでしょう。

ワニス 絵の完成後に画面に塗り、絵を保護するためのいわゆるニスです。艶のあるものと艶消しでマットな質感になるものとがあります。 ただ油絵の画面はすでに簡単に劣化したりしないくらいの強度があるので、けして絶対に必要というわけではないのと、ワニスが絵の印象をある程度は左右するので実際はそこまで頻繁に使われているものではありません。 

ストリッパー 完全に固まってしまった油絵の具を除去する溶剤です。 毒性があり、肌に触れるとピリッとした刺激の痛みを感じます。 使用には手袋を必ずして顔を近づけすぎないようにするなど気をつける必要があります。 完全に放置して固まってしまった油絵の具でない限りはペトロールやクリーナーで落とすことができるので、これもまずそう必要なものではありません。

はじめに揃えたい画用液

まずはペインティング・オイルと言う名で乾性油、揮発油、乾燥促進剤などをあらかじめバランス良くブレンドした、それ一本だけで難なく油絵を進める事ができる便利な油が売っているので悩まずにそれを買うといいでしょう。 それとクリーナーがあればもう事は足ります。強いて言えばペインティング・オイルは絵を描く中盤と終盤にはそのままで良いですが、序盤に限ってはそれだけで使うには多少濃いので希釈するためのペトロールかテレビン油もあると良いです。

パレット

パレットを代表するものと言えば、きっと皆さんが一同に思い浮かべるオーバル型(楕円形)の木製のパレットかもしれません。ヨーロッパではクルミ材で出来たものをよく見かけますが、日本では、きめが細かくて美しい桜材が使われたパレットなども作られています。その他、長方形のパレットや二つ折りにできて外への持ち運びや収納に優れたパレット、ガラス製のもの、描き終えた後にお掃除が楽な一枚づつ剥がして使う紙製のタイプのもの、アトリエがあってサイズの大きな絵を描く画家などは、キャビネットやテーブルに設置して使う大きな大理石をパレットとして使っていたりもします。

はじめに揃えたいパレット

油絵の道具一式セットから始める場合には既にパレットがひとつ入っているので、もちろんそれを使うと良いと思います。 テーブルやキャビネットの上にパレットを置いたままにして絵を描く人もいますが、そうでなければパレットを選ぶ時に大切なことは長時間手に持っていても疲れないものを選ぶということです。ただ軽ければ疲れないと言うわけではなく、良いものになるとしっかりと大きくてある程度の重さがあっても親指の入る穴より内側にかけて木が厚くなっていたり重りを付けることで重心を合わせ、手が疲れにくくなるように配慮された設計がされているものもあります。 描いても週に一度くらいしか描かないという人は、一度パレットに出した絵の具が翌週には乾いて使えなくなってしまうので紙製の一枚づつ剥がして使うタイプのものも便利かもしれません。

キャンバス

基本的にキャンバスと言えば、亜麻という麻から取った繊維で織られています。最も古く残る絵画作品としては15世紀初頭の作品も存在しているくらいなので、丈夫くて信頼できるのは当然ですが、特筆すべきは油絵の具はその亜麻の種子から取った亜麻仁油によって練られてきたとういうことです。つまりは親と子の関係とも言うべき、この上ない相性であったわけですね。 安価なものになるとコットンや合成繊維で作られたのものありますが、出来たらやはり麻のものをおすすめします。 直接油絵の具で絵を描くと吸収が激しくとても描きづらいので伝統的なものは、絵の具との絶縁と布目を留める目的でまず膠(ニカワ)が敷かれ、その後にファンデーション(地塗り剤)が塗られています。最近では膠に変わってアクリル樹脂などもよく使われるようです。すでに規定のサイズの木枠に張られている張キャンバスがありますが、ロール状に巻かれたキャンバスと木枠を別で買って自分で張ると、より経済的でいて既製のものよりもさらに強いテンションをかけてキャンバスを貼ることが出来ます。

その他の支持体

キャンバス以外にも木製パネルにジェッソ(白の下地を作る石膏などで作られた下地材。アメリカのリキテックス社のものが有名)やファンデーションを塗って支持体としたり、厚紙を加工した安価で手軽に使えるキャンバス・ボードというのもあります。

はじめに揃えたいキャンバス(支持体)

自分で是非ともキャンバスを張ってみる挑戦をしてみたいところですが、初めは何より描くことの楽しさに目を向けるためにも、やはりすぐに描き始めることができる張キャンバスを買うと良いでしょう。大きさは6号、あるいは8号くらいがまず油絵の具に慣れるためにはちょうど良いと思います。

イーゼル(画架)

絵を描く時にキャンバスを支え、立てかける台です。 日本語だと画架(がか)と言いますが画家と間違えてしまい、ややこしいのでやはりイーゼルと呼ぶ方がいいですね。 大掛かりなものは電動式で上下に動いて絵の高さを変えることが出来たりするものもありますが基本的なイーゼルの作りは至ってシンプルです。キャンバスを立てかけるすぐ下に筆などが置ける場所が設けてあるものなど工夫を凝らしたものもありますが何より大切なのはしっかりとキャンバスが固定できて絵を描いている時に、けして ブレたり不安定にならないことです。屋外で描きたい人はアルミ製、あるいは木製の折りたたみの三脚型や、絵の具箱と一体型になったイーゼルもあります。

はじめに揃えたいイーゼル 

屋内で描きたいか屋外で描きたいか、大きい絵か小さい絵かなど、きっとみなさんがそれぞれ思い浮かべているイメージが違うのと、特に屋内で描く場合、空間的に使えるスペースなども違ってくるので条件によって理想は様々だと思いますが、とりあえずのおすすめのイーゼルとしてはアルミ製で折りたたみ式の三脚型イーゼルです。 屋内外と両方で使えるのと、たたんでしまえば場所を取らず、軽いので楽に外へ持ち出せるのでとても便利です。注意点としては長所でもあり短所でもある軽さで、特に風のある日に外で設置する場合は中心部に重りをぶら下げたりと工夫が必要になります。

額縁

気に入った作品が出来上がったら、絵とよく合う素敵な額に入れて是非とも飾ってみると良いでしょう。 額縁は絵を飾る場所と絵を繋ぐ大切な要素ですので、絵と合うかだけで選ぶよりも絵を飾る壁の色やその場の雰囲気も意識して選ぶと、絵もその場の空間も相乗効果によってより良いものになります。 可能であれば額縁屋さんに出来上がった絵を直接持ち込んで相談すると、その経験から絵に合った額縁をすすめてくれるので、話を聞いてみるのもいいと思います。 

ヨーロッパにおいてはあまりガラスの入った額縁というのは、あるにはありますがあまり一般的ではないかもしれません。 というのも日本との気候の違いによるところがあって、湿気の少ないヨーロッパではガラスで絵を保護しなければいけないということがあまりないからだと思いますが、日本においては季節によって湿気がとても高くなるので注意が必要になります。 

絵の表面自体は油絵の具さえ固まってしまえばしっかりしたものになりますが、膠(ニカワ)で目止めをしてある場合、キャンバスの裏側から極度の湿気や、不意の事故によって濡れてしまったりした場合に、膠が溶けて表面の絵の具の剥離につながったりする恐れがあるのでガラスなどで絵を覆いたくない場合は、風通しが良く湿気が籠りにくい場所に飾るか、そうでなければやはりガラスや透明なアクリル板入りで裏蓋付きの額縁を選ぶといいでしょう。

その他

油つぼ もっとも一般的なものはそろばん型と呼ばれるパレットの端に備え付け、画用液を半分の高さまで入れておけば製作中にパレットをかなり傾けても画用液がこぼれてこない設計になっています。 そんなに大きいものではないので大作を制作したい時などには別途蓋付きの容器に画用液を入れて使う必要があります。

キャビネット 画材の収納と絵を描く時には上部が使用中の筆や絵の具などが置ける作業台になります。 とても便利ですが、けして安くはなく、ある程度の重さがあり、場所もとるので余裕があれば是非揃えたいものの一つです。

ボロ布 制作中に筆をぬぐったり、その日描き終えたあとの掃除に使います。 しかし普段から意識して集めておくなどしない限りは無くなった時にすぐ手に入るものでもないので実際はティッシュなどを使うことになりますがおすすめは安価で少し固めのトイレットペーパーがとても使いやすいです。

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